ラップなんか出来ないので、拳で生き残ろうと思います 2【ヒプマイ】 (ページ34)

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命の恩人ページ34

男の癖に、随分と脆い奴だった。

数発殴ったら、尻尾を巻いて逃げていった。

『…人やるんなら、やられる覚悟をしてからにしろ…

って、一郎さんが見てたアニメで言ってたな…』

夢野「あの、ありがとうございました。」

あ、完全に忘れてた。

私の後ろに庇った美青年の存在をようやく思い出し

振り返ると、そこにいたのは水も滴るいい男…という奴だった。

『…別に、ただの気まぐれ。馬鹿の愚行だよ。』

夢野「何かお礼をさせてください。」

『だから、気まぐれだって言ってんじゃん。うるさいなぁ。

じゃあね。気をつけなよ、君かっこいいんだから。』

さっさとその場を立ち去ろうと踵を返すと

ナイフを掴んだ方の手を掴まれた。

お前さっきの一連の流れ見てなかったの？

夢野「せめて、その手の手当てだけでもさせてください。」

『お前のせいでたった今悪化しましたけど。

はぁ…やめてくれない。私、もう…誰とも、関わ…らないって…』

視界がぼやける。

足元がふらつく。

あ、そういえば私…ここ三日くらい

何も食べてないし、寝てなかったっけ…

夢野「ちょっと、貴方大丈夫なんですか！？」

美青年の声に応える間もなく

私の意識は、底の無い沼の中に沈んでいくように

ゆっくりと、途切れていった。

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雨で体が冷えているはずなのに、暖かい。

寝不足で気分が悪い筈なのに、どこか心地いい。

『…ん…っ…ぅ…』

夢野「あ、起きましたか。おはようございます。」

見知らぬ天井。明るい室内。

和室特有の畳の匂い。

誰かの家…普通に考えて、今私に声をかけた美青年の家か。

『…どうして、ここに。』

夢野「小生が呼び止めたと同時に、倒れたんですよ。貴方は。

ここは小生の家です。」

『…そう。ありがとう。

じゃあ、私はこれで。』

夢野「待ってください。

雨で体が冷えているでしょう。このままでは風邪をひいてしまいます。

お風呂を沸かしておきましたので、入ってきてください。」

『結構です。着替えもありませんし。』

夢野「着替えなら小生のものを貸します。」

『そこまでしてもらう理由がないので。』

夢野「命の恩人に風邪をひかれては、罰当たりもいいところです。

理由なんて、そんなものでしょう。」

もう、何を言っても無駄な気がする。

諦めて無言を貫いていると

押し付けられるように着替えを持たされ

浴室に押し込まれていた。

『…意味、わかんない。』

私に関わったって、碌なことがないのに。