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鬼を喰らって獣となる ページ31

肌と肌がぶつかり合う鈍い音が響く。

体が動かない。

私はまた、見ていることしかできないのか。


『やめろ…』


「いつも見てばかりだったお前に!俺を止める資格なんざない!!」


三郎「ッあ"…くっ…逃げ、て…」


暗闇しかなかった人生に、灯った光すら

守れないのか。見捨ててしまうのか。


『やめろ…!』


「だったら止めてみろよ!弱虫が!!」


三郎「Aさ…僕、は…大丈夫…早く、逃げ…!」


三郎くんの息が浅くなっていく。

お父さんの拳は次第に強さを増していく。

このままじゃ、死ぬ。

三郎くんも。

私の、心も。


『やめろ…やめろ…ッ!』


「お前は一生、無力なままで生きていけ!!」


『やめろッ!!』


一度足を踏み出せば、体は簡単に動いた。

もう二度と、三郎くんに拳が届かないように

怒りで爪が食い込むほど握りしめられた自身の拳を

変わり果てた男性に叩き込んだ。


「がッ!?」


『三郎くんに手ぇ出してんじゃねぇぞ、クソ野郎!!』


この日、私は初めてお父さんを殴った。


殴って、すぐに後悔した。

あぁ、最初からこうしてればよかった。

お母さんにも、こうやってやってればよかったんだ。

そうすれば、そうしておけば。


三郎「……」


三郎くんは、こんなに傷つくこともなかった。

私が、弱かったから。

私が人の助けになれる力を持っていなかったから。

私が、私が


「A…お前、父親殴るとはいいどきょ…」


『黙れ。これ以上喋るんなら息の根止めんぞ。あ?』


このクソ野郎を、さっさと壊しておけばよかった。


もうこんなクズに構っている暇はない。

そんなことより三郎くんだ。

少し離れた場所にいる三郎くんに駆け寄ると

小さく唸り声を上げながら、気絶しているのが分かった。


『三郎くん!三郎くん!…意識がない…』


このままにしていては、三郎くんが衰弱していくだけだ。

山田家に連れて行こう。

とにかく、一郎さんたちのところに行かないと。

私だけじゃ、どうにもできない。


『三郎くん、ごめんね。』


私よりも大きい三郎くんの体を横抱きにして持ち上げ

なるべく振動を与えないようにして、山田家に向かって走り出した。


「待て、A…!」


『…もうお前に名前を呼ばれる筋合いはない。

二度と私の前に現れるな。目障りなんだよ。

お前は、家族じゃない。』


私が背負いたい重みはこんなものじゃない。

私が三郎くんに背負ってほしかったのは、こんなトラウマじゃない。


『ごめんね、三郎くん…ごめんね…!』


私が泣いたら、いけないのに。

強い心の作り方→←人は容易く鬼と成る



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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!とても面白いです!更新楽しみにしてます! (2021年7月10日 12時) (レス) id: 6c3b400c86 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:天空の巫女 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/TENMIKO/  
作成日時:2021年3月20日 21時

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