器から溢れる水のように ページ28
文句を言いつつも、左馬刻は一切ソファから動かなかった。
その間に、さっきまでする予定だった料理を済ませ
軽い食事を作って左馬刻の前の机に並べた。
左馬刻にも何か用事があるんだろうけど、きっとこれがいい機会だから。
左馬刻「お前…これ。」
『いいから食べてくれない。
…憂さ晴らしに作ったものだから、真心なんざ籠ってないけど。』
左馬刻「…そうかよ。」
左馬刻が食べ始めたのを確認して、私も料理に手を付けた。
…味付けしたのに、味がしない。
緊張のせいか、将又嫌な記憶に塗りつぶされてしまったのか。
左馬刻「…美味いんじゃねぇの。」
『…そうかな。ありがとう。』
口を開け。声を出せ。
言わなきゃ何も進まないだろうが。
きっと、言い出せば
嫌でも止まらなくなるんだから。早く。
左馬刻「…あの一郎んとこのガキか。」
『え…ごめん、どっち?』
左馬刻「三男坊の方。お前の守りたい大事なもんって、アイツの事か。」
馬鹿でもわかる。
多分左馬刻は、私が切り出しやすいようにしてくれたんだ。
コイツ察し良すぎ、気持ち悪いくらい。
…だから、話したくなるのかな。
『そうだよ。三郎くんのこと。
…左馬刻さ、前話してくれたじゃん。両親のこと。』
左馬刻「あぁ。」
『…うちは、左馬刻の家とは逆だった。…いや、逆になったんだ。』
嫌でも鮮明に脳裏にこびり付いた悪夢。
声が震える。視界が定まらない。
それでも、話さないといけないんだ。
左馬刻「…?」
『結構長い話だけど…聞いてもらっていい?』
左馬刻「…飯食い終わるまでならな。」
『…私の家は、ちょっと父親が厳しいだけの
普通の家だった。』
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中王区政権樹立以前。
私のお父さんは、言葉で表すとしたら亭主関白という人だった。
『お父さん〜宿題わかんない…』
「自分で考えたのか。」
『うん、ほら見て。いっぱい計算したんだけど
どうしても答えにならないの!』
「そうか。そこまで考えたのなら教えてやろう。こっちに来なさい。」
だけど、凄く優しい人だった。
厳しさの中の優しさが、人に対する想いが私は好きだった。
「あら、今日はお父さんと一緒にお勉強なの?」
『お母さん!うん、宿題がわからなくて…』
「お前、すまないがお茶を淹れてくれないか。
多分長くなる。」
「わかったわ。お茶菓子も持ってくるわね。」
そんな幸せが崩壊したのは
中王区政権が樹立してすぐの事だった。
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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!とても面白いです!更新楽しみにしてます! (2021年7月10日 12時) (レス) id: 6c3b400c86 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天空の巫女 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/TENMIKO/
作成日時:2021年3月20日 21時