想い出は暖かい光のようで ページ25
もう少しで、赤い空が闇に呑み込まれる。時刻で言うと十八時前。山に囲まれた場所だからか、屯所より冷えるような気がする。
「そういや、何か奢ってくれんだったよな」
何も無かったかのようにそう言うから、私も忘れた方が良いんだと思う。
「はい、何でも良いで…あ…綺麗」
川に何か、流れてる…ランプみたいな。
ほんのりとした優しい灯り。
河原には大勢の人が集まっている。なんだろう。
「知らねェですかィ?ありゃ灯籠流しでさァ」
亡くなった人の魂をあの世へと送り出す為のものだと教えてくれた。普通はお盆にやるものらしい。
何で冬のこの時期なんだろう。
そんな事を話していたからか、近くにいた腕章をはめた恐らく主催側のおじいちゃんが話してくれた。
「今日はあの世とこの世が、一年の中で一番近づく日なんだよ。きっと会いに来てくれた亡者を、あの世へと送り届ける為に流すんだ」
君達もどうだいと問われたので、有り難く受け取る。
マジックペンも受け取り、近くの机で灯籠に名前を書く。隊長の方を見ると、書かれた三つ名前は、全て沖田……家族だろうか。
その内一つは隊長のお姉さんの名前。
「会いに来てくれてたら嬉しいですね」
沖田隊長はこっちを見ず、川に灯籠を浮かべながら軽くあぁと頷く。
私も同じように灯籠を流し、冥福を祈る。
「あんたは誰を書いたんでさァ」
「私は…父と母と、妹の名前を書きました」
それ以上深くは聞いてこない。
私も思い出したく無いから良かった。
きっと、気になってると思う。
書かれた名字が大空ではない理由。
でも聞かないのは、私が悲しそうな顔でもしてしまっているのか。
「俺も、両親と姉上の名前を書きやした」
似てますね。そんな意味の分からない言葉しか返せなかった。それは、彼がどれだけ家族を大切にしていたかううん、しているか知っているから。
私もそう。
寂しくて、悲しくて、苦しくて。でも…暖かい記憶は光のように私を照らしてくれる。
「私は、今すごく幸せです」
手を合わせながら、沖田隊長の方を見て言った。
「誰に言ってんでィ」
「へへッ。お父さんとお母さんと妹と、沖田隊長に言ってます」
へいへいと軽く流した彼は、ぼんやりとした眼差しで川を見つめている。その水面に写るのは。
「月が…綺麗ですね」
「…星が綺麗ですね」
彼らしくない言葉に、少し驚いた。でも。
「そうですね」
笑い合えた今日は、大切な想い出に変わる。
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千の歌を歌う人(プロフ) - 十音さん» 返信が遅くなり、すみません!!ご期待に添える自信はあまりないですが、書くのがすごく楽しいので頑張ります!! (2020年2月16日 23時) (レス) id: 88ef43b3c1 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - 千の歌を歌う人さん» すごく好きです!(この作品も千さんも)(突然の告白) (2020年1月25日 23時) (レス) id: 29ef4bacad (このIDを非表示/違反報告)
千の歌を歌う人(プロフ) - 十音さん» すごく驚きました。すごく嬉しいです! (2020年1月25日 12時) (レス) id: 1dfb43aa3f (このIDを非表示/違反報告)
十音 - 千の歌を歌う人さん» と思ったら1位だよ!!!!おめでとう!!!! (2020年1月19日 1時) (レス) id: 29ef4bacad (このIDを非表示/違反報告)
十音 - 千の歌を歌う人さん» すごっっっ!!もう去年Aなってるんだよなぁ我。あ、関連作品ランキング2位おめでとう!!!!!! (2020年1月19日 0時) (レス) id: 29ef4bacad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2020年1月1日 1時