ゆくあてなき刹那の恋詩 2

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週が明け
大阪出張以来の臣さんに
フロアで鉢合わせた。

威嚇に似た怒りが湧き上がると思っていた俺は
意表を突かれた。



　“すみません。でも
　 嫌がってるのに…良くないっすよ、臣さん”

　“ははっ、ご忠告どうも？…じゃ、戻るわ。
　 おやすみなさい、Aさん”



「おはようございます、臣さん」
「岩田…。おはよう」


らしくなく、隠しきれていない憂い。
予想外の空虚な瞳。

何かを飲み込み、俺の肩に手を乗せ
自分のデスクに向かった背中。

それ以上の言葉は、見つけられなかった。









そして憂いを隠しきれていないのは
Aさんもだった。


「おはよう岩田。14時半頃出るわよ」
「おはようございます。了解です」


言葉や態度こそ、一見、いつも通りに見えるが
どこか空虚で、どこか苦しそうで。


Aさんと臣さん。
各々の憂いに見えて
実は同じ色の憂いだとは、気づきもせず。








　




14時半。


「岩田ー、行くわよー」
「はーい」


幾分、元気を取り戻した気がする。


得意先回りも順調に進み
通り掛かったグリーンのロゴの店の前で


「岩田、フラペチーノ飲もっか？」
「勘弁して下さいよAさん」
「ふふっ、一生言ってやる！」


それ自体が既にジョークと化していた事が
なぜ悔しく(・・・)思ったのか
この時点ではまだ気付く事が出来なかったけど

俺と過ごしたこの数時間で
ジョークを言えるほど元気を取り戻してくれた事は
素直に嬉しかった。


「風、強くなって来たわね」
「そうっすね」


職場が入るビルの扉を目の前にして


「きゃッ」
「痛ッ」


突風に煽られ
よろめいたAさんのヒールが

俺の足の親指を直撃した。


「ごっ、ごめん！！」
「いーからほらッ！！」


Aさんを支えたと同時に
その髪が風で舞い上がり、俺の視界を塞ぎ、


「あーっ！もーッッ！！」
「ふふっ、あははッ！！！」


笑いコケながら二人でなだれ込んだビルの扉。


「ごめん岩田ッ！足大丈夫？」

「大丈夫じゃないっす！
　てかAさん、髪ボッサボサだし」

「岩田だってボサボサじゃん！！」


親指くっそ痛いのに
俺を見上げながらめっちゃいい顔で笑うAさんが

可愛い、と、…思ってるみたいだぞ？




「あれ？…隆二？」
「よぉ」



そんな中

Aさんの声の先にいたのは
臣さんと、Aさんの弟さんの友人。


Aさんを家まで送ったあの夜

Aさんを支えた、あの手だった。




　

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