fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【星冴ゆる】 ページ9

ウィリー・ウォンカは「真冬の寒中水泳も悪いもんじゃないな」と思っていた。
泳いでいる間に色んなことを考えられるし、脳が何よりシャッキリする。
まぁ、もう一度6km泳ぐかと聞かれたら……頷き難い。
船長不在の船が爆破した所を運よく逃れ、彼は元の街へ帰って来れた。
オレンジの紳士とは逸れてしまったが、きっと彼なら大丈夫だろう。


全身びしょ濡れの中、ウォンカはずんずんと街の中を進んで行く。
身体の芯から凍りつきそうに寒かったが、せかせかと動いていればいずれ温まってくるはずだ。
有り難い事に脳は冴え渡っていて、今やるべき事柄とこれからするべき事柄についてよーく熟考することが出来た。


ヌードルと皆はまだ宿にいるだろう。今はまだ、彼らの所へ向かうべきではない。
スラグワースやスクラビットの出方にもよるが、少なくとも今日の朝の点呼で解放されるであろうヌードル以外のメンバーを待ってから行動すべきだ。
彼の推測が正しければ、ヌードルを助けられるのはその後になる。


それまでまだ時間はある。
ウォンカの足は迷いなく、一直線にある場所へと向かっていた。
流石に真夜中なので辺りはしんと静まり返って物音一つしない。


目的地のシルエットが見えてくると、その手前でゆらゆら動く小さな影を視界に捉える。
まさか。一瞬警戒心を抱いたウォンカだったが、その正体が何か分かると一目散に近付いた。


アリスの父、ポールだ。
彼もウォンカの存在に気が付いたのか、さめざめと泣きながら駆けて来る。
何事かと落ち着かせれば、彼は懺悔する様に膝をついた。
フィクルグルーバーに「アリスがウォンカの店へスパイしに行った」と嘘を付いたのをずっと悔いていたらしい。
それからずっとウォンカの姿を探し回っていたようだ。


彼はポールの背中を優しく擦りながら「僕は大丈夫。貴方は悪くない」と言い聞かせる。
しかし自責の念に駆られているポール。
あまりに自分を責め立てているので、不穏な感じに胸騒ぎがした。


「アリスが……」


その名前を聞いただけで、彼の面持ちがより真剣なものへと変わる。
ポールに「アリスと会わせてほしい」とお願いすれば、是非そうしてくれと寧ろ懇願された。
シルクハットを被り直し、ポールの案内の元、レストランの二階。
大きな窓からアリスの部屋へと侵入を試みる。



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