fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【大聖堂前】 ページ23

フラミンゴの真横でもお構いなしに加速する車。何て事を。アリスの中に憤りと焦燥感が募った。
車を避け、飛び立つフラミンゴ。大きく開いた扉から冷凍エビの箱を覗かせるトラック。
猛スピードで進む車とトラックがすれ違う寸前、配達員の格好をした初老の男性とアリスの目が合った。


ほんの一瞬だったけれど、頷き合う二人。
大聖堂はもう間もなく。どうか、上手くいっていますように。
アリスはウォンカの無事をもう一度、強く願う。


大聖堂の目の前まで来ると、先を行っていたスラグワースの車が目に入った。
アリスとフィクルグルーバーの乗った車の後ろに、プロドノーズと思われる車が止まる。


不快感を見せるフィクルグルーバー。事の重大さが分かっているのかいないのか、いつも通りのプロドノーズ。
それから口元は笑っているが、目からは怒りが見え隠れするスラグワース。
各々が車から降りて目配せをすれば、彼らは大聖堂へと入っていく。
慌ててアリスも車から降りて付いて行こうとするが、フィクルグルーバーにそれを制された。



「アリス、君はここにいなさい」

「で、ですが……」

「何も心配するようなことは無い。ただ少し、神父に急用が出来ただけだ」



三人分の視線の圧力が痛い。
ここで食い下がればもう少し時間が稼げるかもしれない。だが……。



「……分かりました。ここでお待ちしていますね」



万が一を考えて、彼女は大人しく身を引いた。
悔しさを作り物の笑みに隠す。
それを見て、チョコ組合の三人は「それでいい」と言いたげに頷いた。


青と緑と黄色の背中を見送るアリス。今ここで、自分には何が出来る？
何も出来ずに待つだけの時間がもどかしい。
握り締めた拳に爪が食い込んで痛みが走った……その時だった。



「アリス？」



誰かから名前を呼ばれた。 驚いて周囲を見渡すアリス。
しかし、人影は無く声の主は分からない。
ぐるりと視線を一周させた所で、今度は「こっちだ」を声が投げられた。
その正体がマンホールから顔だけ出す男だと気付くと、心臓が飛び跳ねる。



「私だよ、アバカス・クランチ。君のパパの友達だ」

「ア、アバカスさん……！？」



駆け寄るアリス。数年ぶりに見た心が安らぐような笑みは、確かに見覚えがあった。
突然与えられた奇跡の再会は、二人に笑顔を生ませたが、今は手放しに喜んでも居られない。
アバカスは知っている情報を、アリスは知っている現状を交換し合い、彼らは次の展開へと身構える。



.

【Chocolate Execution】→←【フラミンゴ渋滞】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す