【ハンカチの行方】 ページ25
「いつの間にパパと仲良く?」
毛布に包まりすやすやと眠る父を一瞥したアリス。
父との関わりを問えば、彼は口籠りながらも正直に話してくれる。
「お得意様なんだよ。僕のスイーツをいつも買ってくれる」
「成程……それで最近ずっと上機嫌だった訳……。
というかウォンカさん、いつの間にお店を?」
「ううん、お店はまだ。今は移動販売でチョコやスイーツを売ってるんだ」
「……パパもチョコを?」
「いや、ポールさんは一度もチョコを買った事が無いよ。……もしかして、彼も?」
顔を覗き込まれて、あの柔らかなグリーンがまた心を絆す。
失敗した。彼の言う「もしかして」の意味は分かっている。
この件に関して、いつまでも誤魔化していたってしょうがない。
真実を伝えたら彼は……どう反応して、どう思うのだろう……。
葛藤の末、アリスは観念して「もしかして」の続きを切り出した。
「ううん、違う。パパもママも……本当は私も……チョコレートアレルギーなんかじゃないんです。
ごめんなさい……あれは、私が咄嗟に吐いた嘘」
静かに首を振るアリス。
彼の顔を見るのが怖くて、顔を伏せる。
視線の先のカップからゆらゆら立ち上がる湯気を、意味も無く見つめた。
今夜は窓を叩く風の音もなくて、より澄んだ静寂が二人の間を流れる。
「えっと……実のところ、僕も君に謝らなくちゃいけない事があって」
「貴方が?私に?」
思い掛けない言葉に、アリスはパッと顔を上げた。
ウォンカは弱々しい笑顔で、机上のシルクハットから何かを取り出す。
片手サイズの布は見覚えがあって、彼女はそれが元々自分の所有物だったことに気が付いた。
三度目の邂逅で渡したハンカチだ。
彼がいつも被ってるシルクハットの中から出されたハンカチからは、それを彷彿とさせないほど心地良く上品な石鹸の香りが漂う。
でもいつも被ってるシルクハットから出てきたよね……?と、言い難い奇妙な気持ちにさせられた。
もしかして、このハンカチが謝らなきゃいけない理由?
「別に返さなくても良かったのに……ありがとうございます」
「……君と初めて出会ったあの日、とある宿にご厄介になったんだ……で、まぁ、紆余曲折あって……」
やけに歯切れが悪い。
彼から謝られるような事なんて思い当たる節も無く、アリスは静かにその言葉の先を待った。
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ソフナー(プロフ) - かんなさん» かんなさん、いつもコメントありがとうございます!いえいえいえ、こんな素人文章にお金使わないでください……!寧ろ好きと言ってくださるかんなさんにお金払います(?)いつも応援ありがとうございます🥰 (2月5日 6時) (レス) id: deb951e27a (このIDを非表示/違反報告)
かんな - 何かもう本当に読み進める度にこの作品が好きになります🥲💖もうお金払ってでも読みたいレベルです‼️ (2月4日 22時) (レス) @page39 id: 64afab6d44 (このIDを非表示/違反報告)
ソフナー(プロフ) - かんなさん» かんなさん、いつもありがとうございます!皆さんが読んでくださる事が私の励みにもなります!🙏これからも日々の楽しみの一部になれるように、頑張って更新続けていきますのでよろしくお願いします💖 (1月28日 8時) (レス) id: deb951e27a (このIDを非表示/違反報告)
かんな - やっぱりすごく読んでいて続きが楽しみになる作品ですね🥲私の毎日の楽しみになってます!! (1月28日 8時) (レス) id: 64afab6d44 (このIDを非表示/違反報告)
ソフナー(プロフ) - kinokokanaさん» kinokokanaさんコメントありがとうございます!楽しんで下さる方がいらっしゃるのが一番励みになります😭極力、一日か二日に一度更新を目指しているので、頑張ります!💪これからもよろしくお願いします💖 (1月17日 12時) (レス) @page15 id: deb951e27a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ソフナー | 作成日時:2024年1月7日 21時