恋みぞれ【イナイレ短編集】

47ｰ2 ページ13

「本当に…」


書いちゃってる、この男は。


短冊は今日中に提出する必要がある。
そして、その日のうちに玄関に設置されている笹にくくるそう。


自分たちの中だけで留めるならまだしも、他のメンバーの目に入る可能性が高い。

それならば見られにくい場所に飾ればいいのではないか。


その1、笹の高いところに飾ってもらう。

…いや、西蔭くんや砂木沼先輩みたいな背の高い人達には容易に見られてしまう。


その2、笹をかき分けた深いところに飾ってもらう。

…いやいやそんな所に飾られた短冊のお願い事なんて誰が叶えるんだ。



だめだ。無理。

書き直してもらうにも予備の短冊なんて持っていない。
更に、こんな綺麗な字で書かれたものを処分するだなんて胸が痛い。


悶々と唸る私を他所に、照美はくすくすと笑っていた。



「あのさ。Aも、僕と同じお願い事にしない？」



そしてえぐりにえぐられた心臓にトドメを刺すかのように一言。

もう、そんな照美の顔を私はどんな表情をして見たらいいのか分からなかった。



「お願いごと、たくさんあるんでしょ？」

「そうだけど…」

「なら尚更、僕と一緒のものにしようよ」

「あの」



…意味が分かりマセン。



「ほら、悩んでたら時間きちゃう」


さあ、と。
彼は机に置いていたボールペンを握らせて書くよう促す。

…確かに、たくさんのお願いごとの中に照美と仲良くなれたらな、なんてものも含まれてはいたけれど。



ううん。
もう考えるのはやめよう。

私が短冊にボールペンを走らせる前から、彼はもう書き上げちゃっているから。

恥も願いも2人のものだ。



▼




「様になってたね、A」

「…思い出す度に恥ずかしくなるからやめて」

「ふふ」



やり場のない思いを込めるように、
きゅっ、と繋いだ手に力がこもる。

その手を辿って隣を見上げると、あの頃より少し大人びた顔つきになった照美にどきりとする。



緑の笹に映えた二色の明るい短冊。

隣り合わせに並んだ不揃いの形に、お揃いのお願いごと。



七夕のおかげなのかは定かではないけど。



「…好き」

「僕もだよ、A」



叶ったよ。

お願いごと。



▽


去年の七夕の時期の下書き、笑
更新する時期おかしくてすみません

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