初恋キラー実弥警官【鬼滅の刃】

10-叶えたい夢 ページ10

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背もたれにもたれ掛かって腕を伸ばす実弥に、そのまま後ろから私の肩に手を回されぐい、と彼の方に体を引き寄せられた。


　吸い込まれるように彼の胸に頭がくっつく。
慌てて体制を戻そうとしたけど、少し強い腕の力がそれを許さず、実弥に寄りかかる形になる。





「さ、ねみ」

「いい志じゃねェか」

「…へ？」

「今は苦しいかも知れねェがもがけば良い。
親の言う事なんざ聞くな。間違ってると思えば自分の思うべき道を進め。若いうちから他人の言いなりになんかなるな。お前のやりてェ事を必死に追いかけたら良いんだよ」

「……実弥……」

「_そういや、名前聞いてなかったなァ」

「名前？」

「お前の名前」





そう言われて、若干震える声で彼に「……A、」と告げる。

私自分の名前すら名乗ってなかったのに、彼は私の話を真面目に聞いてくれてたんだ。





「……A。夢を諦めんな。後悔のねェ様に生きろ」

「……う、ん」





肩に回った手が一定のリズムでぽんぽんと撫でてくれる。
耳元で囁かれてドキドキしながらもその優しい声と言葉にどことなく安心した。





「…そんじゃそろそろ巡回行くかなァ」

「……実弥！」

「あー？」





実弥の体温が十分に伝わりきる前に、体は寂しくも離れていってしまった。

立ち上がった実弥は本当に大きい。
私の事、上から覆い被されそう。


勢い良く名前を呼べば、自転車に跨ったまま彼がこっちを向いた。





「……私、頑張る！」





くしゃくしゃになった両手の答案用紙。


彼は私をじっと見つめて、…それから、優しげに顔を緩めたのだった。





「＿おォ。頑張れ」





たった一言。

それだけで私は何でもできる気がした。



どんなに無謀な事でも。
例えば、このくしゃくしゃになった答案を元に戻す事。
例えば、ママに私の夢を打ち明ける事。



　実弥からの、頑張れ、は…私の最大の機動力になったのだ。





「ただいまっ」

「おかえり。……A？ もう上行くの？」

「うん。勉強するから！」





まずは小さな事から始めよう。
恥じない人間になる。

その為に私は勉強する。
大学に行く為じゃない、人を説得できる程度の教養をつけるために、勉強するんだ。





「……よおし」





ペンを握る手がいつもより力強い。
見てなよ、ママ。

見てて、実弥。


私、必ず自分のやりたい事を叶えて見せるから。



その日初めて、私は机に突っ伏したまま朝を迎えた。





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