38-犯行 ページ38
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「――…送ってやれなくて、悪ィな」
「全然。早く良くなってね」
「そうっスよ、先輩。今日は1人で大変だったんスから」
「玄弥も迷惑かける。すまねェ」
「そう思ってんなら早く布団戻ってください」
私の隣にいる大きな図体を持つ玄弥が先輩である実弥を追い払うように手の甲を振った。
「Aちゃんは俺が責任持って見送りしますから」とため息混じりに出た彼の言葉に、渋々実弥も、大分色を取り戻した顔を歪めながら一歩身を引いた。
「それじゃあな。気つけて」
「うん。実弥も……また、」
「……おォ」
どことなくぎこちない会話に、お互い相手の鼻先を見ながらの挨拶。
それは気まずさなんてものではなく、気恥ずかしさからくるものだ。
日比谷の大きすぎるマンションから一歩外に出ると途端に違う街に来たみたいで。
「……夜の日比谷って、こんななんだ…」
「日比谷、来たことねェのか?」
「うん、あんまり」
「ま、住宅街とかマンションばっかだもんな。遊ぶところはあんまねェか」
「遅くなっちまったな」玄弥の声にハッとして携帯を見ると、何件もの電話の数と、23を過ぎた時刻。
……ママからだ。やってしまった。
携帯を見て固まる私の後ろから、気遣うように玄弥が肩越しに覗き込む。
「…大丈夫か? 親御さん心配してんだろ?」
「……ううん、平気」
LINEに一言、「今から帰る」とだけ送れば案の定すぐに着いた既読と、すかさず鳴った電話。
私はそれに出ないで、鞄の中に携帯を仕舞った。
「――…ここら辺で大丈夫! ありがとう、玄弥」
「そっか。気ィつけてな」
「うん。おやすみ」
実弥に少し似た玄弥に手を振られて、曲がり角を曲がった、午後11時19分。
1階に目を向けると、カーテンから灯りが漏れていて。
一つ息をついて、やおらに扉を引いた。
「A」
頬を鞭で打たれたような、その声だった。
名前を呼ばれただけで気が滅入る、そんな面白い程不機嫌な声色。
「――…ママ」
「行ったのね」
行き先がどこを指しているのかなんて、言わなくてもわかる。
無言を貫く私の額にまた、棘を刺すような視線を感じた。
「…どうして…約束を破ったの!!
あの男とは関わるなと約束したじゃない…!
貴方はそんな子じゃないでしょ!?」
「……そんな子、て…どんな子なの?」
「は?」
ママの嫌う"そんな子"って、一体。何?
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k - おそらまめさあああああああん、、(4回目)いや、あの最高でした。胸きゅんってこういうことを言うのですね、、やはり実弥のかっこよさは最高ということですね。(?) (6月15日 23時) (レス) @page46 id: 5d2f3eba17 (このIDを非表示/違反報告)
ha0824du(プロフ) - 赤の他人で恐縮ですが言わせてもらうと文才すぎやろ〜才能爆発やん!の二言です。ありがとうございます。はい。 (2022年10月6日 22時) (レス) @page46 id: 0233a38cc7 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 39ページ 舌を見ると の 舌 は 下 ではないでしょうか? (2021年6月4日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - Lunaさん» Luna様、最後までご愛読ありがとうございました!最後は少し駆け足になってしまいましたが、胸きゅんお届けできて嬉しいです(^^)かっこいい実弥さんは永久不滅です! (2021年5月29日 1時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
Luna(プロフ) - はじめまして。胸きゅんの素敵なお話ありがとうございました。実弥さんかっこよすぎましたっ!! (2021年5月28日 16時) (レス) id: acb6885805 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年10月22日 21時