22‐待ったなし ページ22
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「ありがとう」
「ん」
家の前まで来てもらった。
「家、ここ」というと、実弥は何か言いたげな顔していた。
彼の言いたい事は何となくわかる。
だけど実弥は何も言わず運転席から降りて、私に傘を差してくれた。
「それ、そのままでいいから返せ」
「下着入ってるよ?」
「……また今度で良い」
私の言葉に、途端に緊張した顔つきで目を逸らすのが、何だかおかしくて笑ってしまう。
しとしと降る雨も、実弥と相合傘ができるならいつまでも降って欲しいとすら思った。
「……帰りたく、ないな」
「阿保か。ここまで送った俺の身にもなれ」
少しぎくしゃくした会話。
だけど気まずさはそこにあまりなかった。
彼はどう思っているか知らないけど、私は今人生で最高の気分だ。
「じゃあ、…また、ね」
「オウ」
紙袋とスクバを手に彼の傘の中から出ていく。
私が後ろを振り返って一歩を踏み出した時、それは起きた。
くい、と軽い力で左腕を引かれた。
即座に振り向いた時には、もう実弥の顔が近くまで来ていて。
「__おやすみ」
「っ、〜!」
ちう、と軽いリップ音が鳴って、腰を折った実弥は甘い笑顔を私に向けた。
実弥、一体何考えてるの。
してやったりの顔を殴ってやりたくても、両手が塞がっている。
「…絶対私からはもう告白しないからね」
「あ?」
「"夢中にさせた罪で逮捕"位言ってもらわないと、絶対にOKしないんだからね!」
「何言ってやがる」
「知らない! 実弥の馬鹿! イケメン! おやすみっ」
「何だそりゃ」
悪態吐く以外に私が出来る犯行はなかった。
私の子供みたいなそれに、実弥は肩をすくめて呆れ笑いをこぼす。
別れ際に、意味が分かんないキスなんかする実弥が悪い!
半ばやけになって私は玄関までの道を走った。
玄関の前まで来て、一度門の方を振り返る。
まだ実弥は、傘を差しながら私を見送ってくれていた。
そう離れてはいない距離。
小さく手を振ると、彼も小さくひらひらさせて、今度こそ車の中に乗り込んだ。
「……はぁ〜〜……」
これが幸せのため息か。
心なしか冬なのに息が暖かった気がする。
にやつきを抑えきれずに、私は玄関の扉を開けた。
「A」
「わっ!?」
扉を開けた先には、ママが仁王立ちしていた。
熱かった体は一気に冷気を取り込みだす。
「塾、休んだのね」
ママは私の持っている紙袋を見て目を細めた。
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k - おそらまめさあああああああん、、(4回目)いや、あの最高でした。胸きゅんってこういうことを言うのですね、、やはり実弥のかっこよさは最高ということですね。(?) (6月15日 23時) (レス) @page46 id: 5d2f3eba17 (このIDを非表示/違反報告)
ha0824du(プロフ) - 赤の他人で恐縮ですが言わせてもらうと文才すぎやろ〜才能爆発やん!の二言です。ありがとうございます。はい。 (2022年10月6日 22時) (レス) @page46 id: 0233a38cc7 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 39ページ 舌を見ると の 舌 は 下 ではないでしょうか? (2021年6月4日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - Lunaさん» Luna様、最後までご愛読ありがとうございました!最後は少し駆け足になってしまいましたが、胸きゅんお届けできて嬉しいです(^^)かっこいい実弥さんは永久不滅です! (2021年5月29日 1時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
Luna(プロフ) - はじめまして。胸きゅんの素敵なお話ありがとうございました。実弥さんかっこよすぎましたっ!! (2021年5月28日 16時) (レス) id: acb6885805 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年10月22日 21時