21-夢じゃない ページ21
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脱衣場の方で洗濯機の音が鳴った。
お互い、びくっと大きく肩を震わせて、我に返る。
焦ったように彼が私の服から手を抜いて体を離した。
驚愕に染まった瞳で私を見つめる。
そして彼の瞳に映っている私も、おそらく同じ目をしているだろう。
「…ッ悪ィ、」
「いや……」
「……服、取ってくるわァ」
私の前に立ちはだかっていた大きな体が離れて行く。
いつの間にか彼に押されて、殆どテーブルの上に寝そべった状態だった。
扉が閉まるのと同時に、私も放心状態のままずるずると椅子に座り込む。
……今、何があった?
永遠にも感じられた数分間。
「〜〜〜ッ!」
誰だ、ファーストキスは甘酸っぱいなんて言った人。
甘酸っぱいなんてありえない。
ほろ苦くて、とんでもなく甘すぎた。
実弥が唇に残したコーヒーの香りが私を包み込んでるみたいだ。
初めてキスした。
……でも、それって、もしかして、実弥。
私の事、意識してくれてるって事だよね?
「…待たせたなァ。……何ニヤついてやがる」
「えへへへ」
「やめろ。…んな目で見んな」
戻ってきた実弥は、気持ち悪い笑いを堪えきれなかった私を見て片手で顔を隠した。
その耳は若干赤い。やっぱり間違いない。
こんな変な笑いでも引かないって事は、少なくとも実弥は私の事。
「オラ、早よ帰んぞ。遅くなったらまずいだろォ」
「はあい」
警官の真似してだるく敬礼してみた。
すると「こうだァ」と角度を直された。
細かすぎて伝わらない。厳しすぎる。
さっきと同じ、まだ濡れた白のボディの車。
連行された時のように後部座席の方まで回ったのに、運転席側に立った実弥が扉を開けながら私を睨んだ。
「何でわざわざ後ろ乗んだよ、こっち乗れやァ」
「えっ」
「早く乗れェ。置いてかれてェのか」
「の、乗るっ!」
慌てて乗った助手席。
エンジンの発車音も、実弥の顔も、余計に近くて左の胸が早鐘を打つ。
…家に入ったのが初めてだったら、助手席も、私が初めてなのかな。
「…実弥、今……いくつ?」
「22」
「5つも上…」
「だから言ったろ、ガキだって」
「それは……そうだ、けど」
丁度赤信号に変わる。
窓の縁に頬杖をついて此方を見遣る実弥と目が合った。
「…そんなガキにムラムラしたくせに」
「……寝言は寝て言えェ」
「ああっ図星の顔してる!」
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k - おそらまめさあああああああん、、(4回目)いや、あの最高でした。胸きゅんってこういうことを言うのですね、、やはり実弥のかっこよさは最高ということですね。(?) (6月15日 23時) (レス) @page46 id: 5d2f3eba17 (このIDを非表示/違反報告)
ha0824du(プロフ) - 赤の他人で恐縮ですが言わせてもらうと文才すぎやろ〜才能爆発やん!の二言です。ありがとうございます。はい。 (2022年10月6日 22時) (レス) @page46 id: 0233a38cc7 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 39ページ 舌を見ると の 舌 は 下 ではないでしょうか? (2021年6月4日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - Lunaさん» Luna様、最後までご愛読ありがとうございました!最後は少し駆け足になってしまいましたが、胸きゅんお届けできて嬉しいです(^^)かっこいい実弥さんは永久不滅です! (2021年5月29日 1時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
Luna(プロフ) - はじめまして。胸きゅんの素敵なお話ありがとうございました。実弥さんかっこよすぎましたっ!! (2021年5月28日 16時) (レス) id: acb6885805 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年10月22日 21時