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「(え、何それ)」
自分の記憶にうろたえて、周囲を見渡す。
だが冷たい視線が突き刺さるだけだった。
今宵は、自分が通う学園が冬学期の終了を祝う自由参加の夜会だ。
既に教師達は出払っており、いるのは学友達ばかり。
なのに誰も彼もが冷たく自分を遠巻きに見ていた。
一人だけを除いて。
唯一、労るような目を向けているのは、セドリックにそっと寄り添う女性＿＿
名前はリリアという。
柔らかそうな栗色の髪、ふっくらとした頬に甘そうな唇。大きな瞳は今、自分を案じている。
さすがヒロインだと見上げる格好で観察して、はたと気づいた。
なら、自分は。
「アイリーン・ローレン・ドートリシュ。俺は君との婚約を破棄させてもらう」
「＿＿＿お待ち下さい、それって！」
自分の名前だ。そして、ゲームでの悪役令嬢の名前だ。
「(まってまってまって！そう、セドリック様はわたくしの婚約者で...!なら私は)」
どこか他人事のように見えていた今の状況に対して一気に思考が巡り出す。
焦るアイリーンを、セドリックは嘲笑った。
「俺はもう、自分に正直にリリアと生きていくことにした」
「....アイリーン様、ごめんなさい」
ごめんなさいってなんだ。
ごめんなさいって。
その喉の奥からせり上げた激情は、正しくアイリーンのものだった。
再度視界が霞んだが、唇を噛んで気を確かにもとうとした。
もう一度、自分の姿を見てみる。
幾重にもレースを重ねた豪奢なドレス姿で、へたり込んでいる。
公爵令嬢にあるまじきはしたない格好だ。だが、誰も手を差し伸べてくれはしない。
だってこれは、悪役令嬢の婚約破棄イベントだから。
「僕に愛されているという君の勘違いにはもう、うんざりだ」
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