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「A」
『…………どうして、貴方がいるのだわ』
「共通の認識、俺はAのオトモダチの顔なんて一つも覚えてない、けど、お前はアイツのこと覚えてたから。それだけ。」
黙ってからどれくらい時間がたっただろう、たった一瞬の出来事だった気もするし、永遠だったようにも思える。曖昧な時間のなかで、彼は不意に口を開いた。
「俺たち、このままどうなるんだろうな」
『…………そう、ね、どうかしら』
「俺、もう戻れないからさ」
『……そうね』
「どうしてなんだろうな、分からねえけど、俺たちは友であれない、恋人でもあれない、何にもなれない、そんな気がする」
『…………そしたら、次は花になりましょうか、鳥になりましょうか、あの星になりましょうか。貴方と共に在れるなら…………私は、何にでも……』
私はこうして、なるべく真剣に話してみたのに、彼は口許をおさえて笑う。何がおかしいのかわからなかったけど、私はなんとなくそれでよかったのだとおもった。どうしてなんだろう、わからない、ぱっとしない、不明瞭で曖昧なまま私は下を向いた。
「はは、ほんと…………死にかけてた奴の言うことかよ、変わらねえな…………」
『………え、まって、死にかけた？何の話なのだわ？』
「お前、ここに来る前はどうしてたか覚えてるか」
『あ、えっと、え〜っと………………闘っていた、と、思うのだけれど、』
「そう、あんなのほとんど相討ちだ、力を出し切って着地に失敗するヒーローがいてどうする」
『え、え……………』
「ほんとに死んだかと思った」
私は……………死にかけた、の？うそ、そんなの絶対に。だって、約束した、死なないって言った、確かに言ったのに！！それなのに、ああ、ああ、どうして。
『ごめん………ごめんなさい…………わたしは、貴方を2度も、裏切ってしまった、のね………』
「………ン」
今日は彼から歩み寄ってきてくれて、いつかよりずっとずっと細くなってしまった私を抱きとめた。応えるように彼の背中に腕を回す。きつくきつく、きつく。
『………怒っている？そうよね、そう、よね……』
「ン〜……」
意識が不明瞭なのは彼も同じなのか、ぱっとしないまま、しばらく強く抱き締められる。彼の生命の音がする、血潮のめぐるこの温もりと、彼の優しい香りを全身に浴びているような気がして、目に熱いものが溜まって、それからそれが溢れてしまったのを感じた。
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作者名：冬谷 | 作成日時：2020年6月29日 21時
