【ヒロアカ】To my dearest. Ⅳ (ページ2)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:13,545 hit

＊ページ2

＊

「…………意地らしいひと、愛を知らないのに、あなたを愛してしまった愚かなひと。あなたの愛を乞うてしまった可哀想なひと。短気でまるで子供のよう………それでも一途に、ずっとあなたを想っていた、灰色の王様」

心臓が、肋骨の中で大きく跳ねた。内側で高く鳴る。もの凄い早さ、体のあちこちで嫌な汗が吹き出た。ああ、靄が晴れる。露と消えてしまった初恋、泡沫の夢。どうして忘れていたの？

『…………ああ、』

「彼はあまりに愚かでした。純粋で、ただまっすぐに愚かで。彼を彼たらしめた、悲しい世界。あなたを救わず、己が正義を貫く。それから、あなたを、あなたたらしめた、美しい世界。あなたを救い、あなたを愛する────……

そう、選べた、けれど、それでも彼は、愛すると。あなたと出会って、すべて変わってしまいましたね。彼はあなたさえ救わなければ、今頃自由だったでしょう。その心に何もしがらみはなく、また、誰一人として彼の心にはもう立ち入れなかった」

『それ、は、どういう、？』

ふふ、と楽しそうに笑った彼の心境を、誰が察せるというの？きっとその気持ちは筆舌に尽くしがたい、いいや、表せるもんか、表せるわけない。どんな個性でも、どんな天才でも、この繊細な気持ちの色を、簡単に紐解けて堪るものか。

「辛かったでしょう、怖かったでしょう、この広い世界にたった一人で、心底不安だったでしょう。それでも、あなたのすべてを剪定し、愛し、たった二本しかないその細腕で何を掴み、守ろうと決める覚悟をするのに、どれだけ恐ろしい思いをしたのでしょう。

この世のすべてを理由なしに怨んでいい。憎んでもいい。許さなくてもいい。あなたには権利があります。だから……夢から醒めなくても、あなたを責める人はいない。」

『でも、それって』

「ええ、ですが、ですがそれでも強く生きなさい金烏A。それから、忘れないで。

…………残酷な人、最低のヒーロー。ただ一人、あなたを真に心の底から愛する人の懇願を、請願を、あなたの幸せのために、振り払ったひと。愛知らぬ青年の、たった一つの希望を叩き壊したひと。色なき世界に色をつけ、心なき彼に優しさを与えてしまったひと。」

私は思わず黙り込んでしまう。そうなのかもしれない、と、思った。彼が言うようにそれが本当なら、私のこの愛は、恋は、エゴだったのかもしれない。