186話だ ページ40
「なあ恭弥まだか？」
「まだ」
バイクを走らせる事数十分、山道を走っている。
といってもしっかり整備されておりデコボコは少ない。
山に何かいいものでもあんのか……？あるとすれば山菜ぐらいしか思い浮かばないが……
少し首を傾げていると「もうすぐつくよ」という声が聞こえた。
ん？もうすぐ……？
そして生い茂っていた木々がひらけた場所に出る私達の目に飛び込んできたのは……並盛町だった。
そうつまり、彼が案内したのは町を見渡せるとある山の頂上だったのだ。
「どう？ここからの景色は絶景でしょう」
「……あ、あぁ…」
今日は珍しく晴天。
さらに言えば私達がいる山は東に位置している。
今にも太陽が沈みかけており空は紺とオレンジのグラデーション。並盛町のところどころに灯る光。
あまりにも美しいこの光景を見入ってしまうのは仕方がないと思う。
「……恭弥」
「何？」
「ありがと」
ここまで連れてきてくれて。
この光景を見せてくれて。
「並盛町にこーゆー場所があるなんて知らなかった」
「君がイタリアに行っている時に見つけた場所だからね」
「お前はここによく来るのか？」
「毎日ってわけじゃないよ。たまにね」
「そっか」
会話が途切れる。けれど指を絡ませ繋がれた手を握り返し私は恭弥に笑いかけた。
ここのことは誰にも言わない。
私と恭弥……二人だけの秘密だ。
でも何故だろう。秘密を共有しているからかとてもワクワクする。
「冬の夜は冷える。そろそろ帰ろう」
「……うん。また今度連れてきてくれるか？」
「何度でも。今度は春に行こう。この近くに山桜が咲いている場所があるんだ」
「おっ！それは楽しみだな。んじゃあ約束な」
「うん。約束」
指切りをした後に私は再びバイクの後ろに乗った。
恭弥は前に乗りエンジンをかける。
私はその間、恭弥の腰をしっかりと掴んで並盛町の景色を目の奥に焼き付けていた。
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作者名：ゆっくりノワール×夜野兎 x他1人 | 作成日時：2017年12月3日 16時
