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あのAを見つけ出した山の中、賑やかに囲まれているAを皆が安堵して見ていた中、ふと竹谷の視界の端に入ってしまったのだ。
意味を理解していないように首を傾げながら、胸元に手を当てている久々知兵助の姿が。
その頬は暗い山の中でも滲むほどに、うっすらと赤らんでおり、何かあったのは一目瞭然であった。

まさかあの兵助がAを好きになるなんて!?

当時は竹谷もそれはそれは驚いたし、日々自室で悶々と葛藤していた。
この日ほど同室がいない一人部屋で良かったと思ったことはないほどだ。

で、でも!あの様子を見るに兵助はきっとAを好きなのに気がついていないはず!
このまま気づかれないよう黙っておくのも得策なのではないか竹谷八左ヱ門!
そうだ!そうだよな!


⋯⋯ほんの、ほんの少しばかりそう考えたが、同時に思ったのは高嶺Aの生き方、在り方であった。

彼女は根性の捻じ曲がったことは大嫌いだし、ああ見えて狡いのもせこいのも好きではない。
戦略的な意味合いでなら状況に応じて使ったりするが、基本は好まない性格であろう。
⋯⋯そんな彼女が、今の俺の考え方を見てどう思うだろうか。







「す⋯⋯す⋯⋯すきって、いや、そんなわけ!俺が好きなのは豆腐一筋なのであって⋯⋯!」


目の前で頭を抱えたまま、久々知はああでもない、こうでもないと言葉を溢しながら頭を抱えている。
恋敵が頭を抱えている様は見ていてまあまあ気分の良いものであり、竹谷はそんな久々知を見て少しばかり口角を上げてしまった。

「ま、俺は言ったからな」

そういうなり、竹谷はスタスタと火薬庫を後にする。
大方いつも通り医務室にいるAにでも会いにいくのだろう、格好いい台詞を吐きつつも足取りは踊っていた。


「⋯⋯、八左ヱ門のやつ。高嶺に似てきたんじゃないか⋯⋯?」


ふと、久々知は先ほどの竹谷の口角の上がった表情と、Aの久々知を馬鹿にしている時の表情が思い浮かぶ。
その様子は恐ろしいほどに重なり、同時にAの様々な表情が雪崩のように久々知の脳内を支配していき、また久々知は頭を抱えたのだった。


「だあああああああそんなはずはああぁぁっぁ!」

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作者名:タジロ | 作成日時:2023年10月3日 9時

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