140 →苦手 ページ46
片付けを終えたAは、その場で軽い柔軟運動をしている。
すると、Aの剣術を見るべく木刀を持ってきた戸部はそっと木刀を手渡した。
「剣術、苦手だったのよね。丁度いいわ」
といいながら、軽く木刀を振ったのち、戸部に「まずは軽く一戦お願いしてもいいですか」と問いかけるA。
そんなAの質問に肯定の頷きと共に「ああ」と声を漏らした戸部は、そのまま距離を取って刀を構えた。
……本当に竹谷先輩と尾浜先輩との約束をばっくれて剣術やってる……。
一方でそんな二人の様子を、金吾は一定の距離をとって見ていた。
金吾の脳内では既に、口が悪く、性格も悪く、おまけに約束すらろくに守れずにばっくれる、本当に顔だけの高嶺Aが出来上がっている。
どうせこの一戦だって、威張り散らしているだけで大した事ないのだろう。
そう、思い込んでいた。
「……では、宜しくお願い致します」
Aの声が、静かな空間に滲むように広がっていく。
じり……と足を踏み込み、砂利を踏み擦れる音が鮮明に聞こえるほどに静かになると、そのあまりに一変しすぎた空気に金吾は思わず息を呑んだ。
ダッ!
「!姿勢が低い!?」
金吾は思わず声を上げた。
数秒前まですらっと立ち上がっていたAとは違い、瞬時に姿勢を低くしたまま利き手に木刀を握ったAは走り出したのだ。
どっしりと構えている戸部とは打って変わり、素早く動くAを見るなり、金吾は目を見開く。
瞬時に戸部のすぐ真前まで移動したAは、そのまま木刀を振り上げる。
するとその技は戸部にはすんなりと受け流され、Aは不機嫌そうに舌打ちをしながら一手、また一手と木刀を振るった。
「相変わらず一つ一つが軽いぞ」
「うるっさいですね!!こちとら最初の一手で戸部先生の木刀吹っ飛ばす気満々の全力でしたけどォ!?」
ガン!ガン!
木刀同士の打ち合いとは思えないほど、激しい音がその場に響き渡っている。
金吾は、もはや一言も声を発する事なく、その場に唖然と立ち尽くしていた。
そんな時、
「おやまあ、イイコトしてるじゃあないですか。」
「!四年い組の、綾部喜八郎先輩!」
「やあ金吾、奇遇だねぇ」
どこかで穴を掘っていたであろう、泥まみれの綾部がひょっこりと後ろから顔を出してきた。
試合を見るのに夢中になっていた金吾は、突然現れた綾部にギョッと驚くが、綾部はそんなことは気にもしていない様子。
何食わぬ顔で、その場に腰を下ろした。
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Lynn - タジロさん» Lynnです。今見ました、戸部様を出してくれてありがとうございます!内容的には面白かったですし、これからもこのシリーズ、続いて欲しいと思ってます (8月31日 15時) (レス) @page45 id: b7c4ae609e (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん(プロフ) - タジロさん» はじめまして!初コメントがこんなのですいません…作品は愛読しています!新野先生だったんですね…医学の心得があるからでしょうか?これからも応援しています! (8月19日 23時) (レス) id: 407aeb7a76 (このIDを非表示/違反報告)
タジロ(プロフ) - めろんぱんさん» はじめまして、コメントありがとうございます!ですね。高嶺の言っている通り房中術は授業で一度限りですが終えております。お相手は高嶺ちゃん資料集に書きまとめましたので顔ありの夢主が地雷でなければ是非ご覧ください……! (8月19日 23時) (レス) id: bcff2be84f (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん(プロフ) - 主人公ちゃんは房中術をやったことがあるんですか…? (8月19日 23時) (レス) @page41 id: 407aeb7a76 (このIDを非表示/違反報告)
Lynn - タジロさん» タジロさん、仕事の方も更新の方も体に気をつけて頑張って下さい。昨日はなんか申し訳なかったです。 (8月6日 16時) (レス) id: 3d10a0695d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:タジロ | 作成日時:2023年5月10日 2時