第一話 ページ2
「Aさん。Aさん起きてください」
「んん…まだ…」
「もう…。いいんですか？遅刻ですよ？」
「…え」
遅刻。そのワードが聞こえて俺はすかさず飛び起きる。
部屋の壁にかけてある時計を見てみれば8時。確か、先生に来いと言われていたのは8時半のはずだ。
今から用意して家を出れば着くのは…。
「うわぁ遅刻だ！」
「はぁ…。昨日夜遅くまで起きているからですよ？」
「母さんなんでもっと早く起こしてくれなかったんだ！」
「何度も起こしましたよ。それでもアナタが、まだ寝るって言うから」
叩き起こせよ〜！と叫びながら俺は急いで洗面所に行って顔を洗い歯を磨く。
ボサボサの髪は放っておいて部屋に戻り、綺麗にハンガーにかけられてある一着の制服を急いで身にまとう。
「Aさん、朝食はどうします？」
「腹は減ってるけど、食べてる時間ねぇ！」
「わかりました。ではおにぎりを２つ、カバンの中に入れておきますね」
「あぁ、ありがとう」
「それと、家の前にタクシーを呼んでおきました。渋滞にさえ引っかからなければ間に合うはずです」
自分の歪んだネクタイを直しながら言った母は、我ながらできた母だと思う。
母にもう一度お礼の言葉を伝え家を出ようとしたとき、Aさん、と呼び止められる。
「ん？」
「忘れ物ですよ」
そう言って渡されたのは一本のベース。
「え。ベースなら数本、引っ越し業者の人が持ってってくれたけど」
「何言ってるんですか。これはアナタが、転校初日のときに一緒に持っていきたいからって手元に残したモノでしょう？」
あぁ、すっかり忘れていた。てっきり他のモノと一緒に持って行ってもらったモノだと…。
「忘れっぽいのも変わらず、ですね。母さんは心配です。この先Aさんが学校生活を…うんぬんかんぬん」
「気ぃ付ける！それじゃあ行ってきます！」
母のお小言が続きそうだったので、それを遮るようにベースを奪い取り家を出る。
家を出ると母が言った通り家の前には一台のタクシーが止まっていた。
「…行ってらっしゃい。気を付けてくださいね」
そう言い軽く手を振った母を一瞥して、俺は急いでタクシーに乗り込む。
「はい、おはようございます。行先は？」
「東雲学園まで、かなりダッシュでお願いします！」
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作者名：蜥蜴 | 作成日時：2018年8月20日 18時
