【デュラララ!!】怪物が訪れた愛に満ちた池袋の話。

昨日の襤褸、今日の喧嘩人形 ページ16

「よお、昨日ぶりだな」



——平和島、静雄……！




Aは、慄いていた。池袋最凶とまで呼ばれるこの男といざ初めて顔を突き合わせてみると、昨日感じた喜びと同じくらい、確かな恐怖も感じた。ああ、この人が私に自販機ぶん投げてきた男か、なんて。

——もしかして私、ここで殺られる？


どんな怒りも買った覚えなどないが、自販機を蹴り返したことで敵とみなされていたらどうしようか。昨夜『平和島静雄は優しい人だ』だとか高笑いしていた割に、こうして生で伝わってくる測り知れない空気には、流石のAでさえこたえるものがあった。



「えっと……あ、これ、要ります？」



つい先刻迷いに迷った挙句購入した缶コーヒーを指さしてそう言えば、相手は無言で首を振った。Aは気恥ずかしさでいっぱいになりながら俯く。どうしようもない、この空気。


九州でそれなりに名が知れた情報屋を務めている割に、勤務外(、、、)のAはそこまで度胸のある人間というわけではなかった。たまに欲望に任せてがむしゃらに他人の人生を壊したり守ったりなんてすることもあるが、基本的には人並みの恐怖心や臆病心を持ち合わせているのである。

そんな自分の口から発せられた先程の震え交じりの声に、ダッセェ、と心の中で悪態をついた。情報屋の仕事をしている間であればこんなことにはならないのにな、そう思いながら万一の死の覚悟を決める。



しかし————




「すまねえな、怪我はなかったか」


「……え、」



意外にも飛んできたのは罵声でも拳でも自販機でもなく、ただ申し訳なさそうな謝罪の言葉だった。






＊ ＊ ＊

語るに落ちる、墓穴に嵌る→←平和島に豆鉄砲

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す