力不足 ページ16
柱になると、刀身に「悪鬼滅殺」の文字が彫刻されるらしい。
柱になってすぐ、彫刻のために刀を取り上げられたので私は今自分の刀を持っていない。
それを鬼が待ってくれるはずもなく、宇髄さんの担当地域をそのまま引き継いだ私の元には、毎夜鬼狩りの仕事が舞い込んできた。
自分の日輪刀を渡す際、代わりの刀として受け取ったのは普通の作りの日輪刀だ。
私の刀は刀身が薄く長い、軽めの刀だったので最初は苦労した。
まず鬼の頸を平行に斬れない。自分の刀より重いので、どうしても刃先が下がってしまう。
それに、刀身の長さが足りず鬼の頸を一度で斬れないことも多々あった。
初めて柱として任務に出た日には久しぶりに腕の筋肉痛に襲われた。
非力だ。柱として、圧倒的に力が足りない。
とにかく、日中の訓練で技能を上げるしかない。
私の場合、今優先するべきことは2つ。
まずは氷の呼吸の完成。遊郭で出来たあの「透明な氷」を常に纏っていること。
これは自分の修業でどうにかなる。
そして、問題はもう一つの方で、判断力をもっと高めたい、というものだ。
遊郭で宇髄さんが左手を斬られた時のあの感じ。判断力の速さは動きの速さにもつながる。
あの状態で立ち回れるようになりたい。
こればっかりは自分一人では無理だ。
稽古をつけてくれて、今忙しくない、判断力と速さに優れた人物。
私には心当たりがあった。
「冨岡に稽古つけてもらえよお前はよ…」
「修行の内容的に冨岡さんよりも宇髄さんに頼んだ方が手っ取り早いかと…」
宇髄さんは元忍だ。判断力の高さは柱の中でも随一だと私は思う。
遊郭での戦いでも宇髄さんの判断に何度も助けられた。
「遊郭で宇髄さんが左手を斬られた時。判断力が上がって、速さが増す感じがしました。」
私の速さには、もう一段階上があります。
そう言うと、宇髄さんは顔をしかめながら「まぁ座れ」と縁側に腰かけた。
「なるほど、じゃあお前はその状態を意識的に持っていきたいと。そういう事だな。」
宇髄さんの言葉に、頷きながら頂いたお茶に手を付ける。
「で、それは窮地に陥った時に発揮されると。」
そうですね。と返すと同時、体に痛みと痺れを感じた。
咄嗟に宇髄さんから距離を取る。
「そういうのはな、手っ取り早く死にかけるのが一番早いんだわ。」
宇髄さんはいつも通りの笑顔で刀を手に取った。
「宇髄さんのそういう所、嫌いじゃないです。」
笑顔を作った私の頬には汗が伝っていた。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時