廿玖 ページ31
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『そんな事無いです。有る訳、無いンです』
私達の間に冷たい風が抜ける。
波の、心地良い音が響いて其れに耳を澄ませる様に目を瞑る。
『慥かに姉様から沢山の愛情を貰いました。溺れて仕舞う程の息苦しい愛』
『私は其れが辛かった。私に其れを受け取る資格なんてものは無いから』
『花が咲いた様な笑顔も、私の名前を呼ぶ其の声も、大好きだって抱き締めて呉れた姉様に何時も罪悪感を感じていました』
『だって私は、偽物ですから』
ゆっくりと目を開けて隣に座る彼に見据えると複雑そうな顔をしていて、今更ながら初対面の人に何を話しているのだろうと思う。
すると彼は考え込む様な仕草をして、クシャりと自身の髪を崩し此方を溜息と共に呆れた様な声色で口を開いた。
「慥かに手前は偽物だ。其れはこれから先ずっと変えられねぇ事実だ」
「だか、手前が其の家族の一員じゃ無ぇと知った後、手前の姉に対してそう思ッたのか?」
『ねえ、さまに…?』
「そうだ。此奴は自分の家族じゃあ無ぇから、血の繋がった姉じゃあ無ぇから嫌いになるのか、近付かねぇのか」
『そんな訳無い!』
『血が繋がっていなくても姉様の事は大好きで、姉様は姉様の儘だった』
「其れと一緒だ」
『い、しょ──…?』
如何云う事だろう。
私が彼の家族で無いと、姉様の本当の妹で無いと判った時、慥かにショックだった。
一晩中泣き続けても涙は止まることを知らないかの様に溢れ出てきた。
然し、朝何時もの様に“お早う”と笑った姉様を見たらそんな涙も止まって仕舞った。
姉様に知られてはいけないと云う気持ちも有った。
けれど其れ以上に姉様との此の関係を壊したくなくてどんなに辛くても姉様の前では笑った。
姉様が姉様では無く赤の他人に変わって仕舞っても、大好きだと云う気持ちは変わる事は無かったのだから。
「手前と手前の姉が姉妹じゃ無かッたとしても、手前に対する姉様の気持ちは変わらない儘だッただろうな」
そう云う事、だったのか。
私が姉様を思っていた様に屹度姉様も私を思っていて呉れた。
大好きでいて、呉れたのだ。
『───ッ、じゃあ、私は其の大切な繋がりを自分で切って仕舞った、って事…?』
自ら深く深く、鎖の様に結ばれていた絆をいとも容易く切って仕舞ったのか。
唯一無二のものを、私は自ら手放して仕舞った。
大切な、ものだったのに。
私の頭を撫でる手袋越しの温かさがより一層私の涙を誘った。
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黒蜜おもち - 終わり!?おっおわ……続き、ください。。。 (3月28日 12時) (レス) @page38 id: b91ecec67d (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - 続きをお恵みください… (12月30日 21時) (レス) @page38 id: 5d2aa23f76 (このIDを非表示/違反報告)
山羊のサーカス(プロフ) - 終わり...だと...!?再度更新を願っております...! (11月25日 18時) (レス) @page38 id: 78c8c266f2 (このIDを非表示/違反報告)
かぐや - 終わっちゃった…更新して欲しいです!!お願いします… (9月8日 21時) (レス) @page38 id: 65c95105c4 (このIDを非表示/違反報告)
rai - お、終わり⁉︎是非更新をしてくれることを願って (8月19日 22時) (レス) @page38 id: 67327e3dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふにゃた | 作成日時:2018年2月18日 19時