廿陸 ページ28
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昂っていた気持ちが徐々に冷めていき、漸く冷静になる。
でも、もう遅い。
街頭に照らされて煌めいている姉様の涙が何よりの証拠だ。
『私、は姉様が、羨ましかった』
ポツリ、と小さな言葉が私の震えて掠れた声となって零れた。
『大好き、なのに姉様と話していると、厭な気持ちが私の頭の中に出てきて』
『嫉妬、してたンだ。兄様と仲が良い姉様に』
大好きな筈なのに、と云おうとした言葉は闇に溶けて消えて仕舞った。
「私も大好きですわ。Aの事が、勿論兄様の事も」
「其れがAにとって残酷な事だった事には気付けなかった。私が感じていた壁は、之だった事にも」
姉様が云っている事が如何いう事なのか、善く判らない。
私が今判っている事は只一つだけ。
たった今姉様と私との間には深い、深い溝が出来た事だ。
物理的にも精神的にも。
当たり前だ。
妹だと思って一心に愛を注いでいた人物が真逆赤の他人だった何て思いもしなかっただろうに。
私が云わなければ屹度気付く事はなかっただろう。
本当の事を告げた姉様の反応何て判っていた筈なのに、心の何処か、屹度奥底で期待をしていたのだ。
そんな事は気にしない、と云って貰える淡い夢を見ていたのだ。
でも見上げた姉様の顔には戸惑いと、少しの拒絶が浮かんでいて其の夢も儚く散って仕舞った。
『ごめ、ん、なさい』
そう思ったら今日何度目か判らない涙が頬を伝って咄嗟にそう云った。
矢っ張り掠れた声でそう云って、私は踵を返して其の場を後にした。
其の選択は間違っていると云う事に気付いていたのにも関わらず。
公園を出た時にすれ違った太宰さんを見て、自分がどれだけ迷惑をかけたのかにも漸く気付いた。
姉様が先刻云った、“お姉ちゃん”と云う言葉にどれだけの勇気と後悔が詰まっていたのには気付く事は無かったけれども。
*
波の音が訊こえる。心地良い音だ。
気付いたら港に来ていて其処で体力が事切れた私は覚束無い足で、或る一角の縁に腰掛けた。
上を向いたら満開の星空と頭上を通り過ぎた月が淡く海を照らしていた。
片手を海に向かって伸ばしていたら若しかしたら死んで仕舞うかもしれない、と莫迦な考えが頭を横切る。
そんな勇気、無い癖に。
「嗚呼?こんな時間に何してンだ。此処は餓鬼が来る処じゃねぇぞ。たく、面倒臭ぇのに逢っちまッたなァ」
突如背後から届く低い声。
初めて訊いた筈なのに何処か感じる懐かしさの所為なのか、意味も無く泣きたくなった。
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黒蜜おもち - 終わり!?おっおわ……続き、ください。。。 (3月28日 12時) (レス) @page38 id: b91ecec67d (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - 続きをお恵みください… (12月30日 21時) (レス) @page38 id: 5d2aa23f76 (このIDを非表示/違反報告)
山羊のサーカス(プロフ) - 終わり...だと...!?再度更新を願っております...! (11月25日 18時) (レス) @page38 id: 78c8c266f2 (このIDを非表示/違反報告)
かぐや - 終わっちゃった…更新して欲しいです!!お願いします… (9月8日 21時) (レス) @page38 id: 65c95105c4 (このIDを非表示/違反報告)
rai - お、終わり⁉︎是非更新をしてくれることを願って (8月19日 22時) (レス) @page38 id: 67327e3dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふにゃた | 作成日時:2018年2月18日 19時