廿漆 ページ29
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コツ、コツと静かな港に靴が小刻みに地面を叩く音が響く。
大きく響いていた其の音は私の直ぐ隣で止んだ。
「今何時だと思ッてンだ。しかも此処が何処かは判ッてンだろ?」
時間、は判る。
否、携帯電話を置いてきて仕舞ったので正確な時間は判らないが、私の瞳に映る風景からもう、随分と遅い時間だろうと推測出来る。
けれど此処は?
何故、隣に佇んでいる彼は其の事を言及し続けるのだろうか。
横浜の港と云ったら“ポートマフィアの縄張り”だと云う事位しか知らない。
『若しかして、お兄さんは、ポートマフィアの方、なンですか?』
ふと思った事をつい口にして仕舞い、しまった、と云わんばかりに口を抑える。
「…もし、そうだと云ったら」
『ッ、え?』
「手前は如何すンだ?」
思っていた反応とは随分と違っていて拍子抜け、と迄はいかないけれど驚いて弾かれた様に顔を上げる。
其処で初めて声の主を見た。
月に照らされて輝く其の朝焼け色の髪の毛は星が散らばる夜空に映えてとても綺麗だった。
海の様な、宝石の様な輝きを放つ細められた双眸は怪しげに光り、口角は上がっている。
私は其の見透かす様な瞳が厭で静かに逸らす。
『多分、如何もしない、と思います』
恐る恐る口を開く。
『別に、もう良いンです』
『お兄さんがポートマフィアで、私を殺したとしても其れはあくまで私が悪いので有って、仕様がない事だった』
『只、其れだけです』
之は、心の底からの本音だった。
自分で命を投げ出す勇気は無いけれど、誰かが其の荷を背負って呉れると云うならば屹度抵抗はしないだろう。
其処迄云った処で何も言葉を発しない彼に対して急に恐怖を抱き、背筋に冷たい汗が伝う。
「ッ、ははッ、手前中々骨が有る奴じゃねぇか。如何やら、唯の餓鬼じゃねぇみたいだな」
『は、はひ…?』
「ふはッ、嗚呼、気に入ッた。面白いな、手前」
何がそんなに面白いのか善く判らないけれど、隣にいる彼は肩を震わせて楽しそうに笑っている。
然し、其の原因が私だと思うと少しだけ複雑な気持ちだ。
「手前、名前は?」
『え、な、名前?』
『え、えと、谷崎、です』
「下の名前は?」
『谷崎、A、です』
「ふぅん、A、か」
此の出会いは之の先、如何影響するのか。
そんな事、今の私には未だ判らないけれど、何かが変わる、そんな気持ちがした。
「俺の名前か?俺の名前は____」
そう告げた彼は子供の様な無邪気な笑顔で笑った。
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黒蜜おもち - 終わり!?おっおわ……続き、ください。。。 (3月28日 12時) (レス) @page38 id: b91ecec67d (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - 続きをお恵みください… (12月30日 21時) (レス) @page38 id: 5d2aa23f76 (このIDを非表示/違反報告)
山羊のサーカス(プロフ) - 終わり...だと...!?再度更新を願っております...! (11月25日 18時) (レス) @page38 id: 78c8c266f2 (このIDを非表示/違反報告)
かぐや - 終わっちゃった…更新して欲しいです!!お願いします… (9月8日 21時) (レス) @page38 id: 65c95105c4 (このIDを非表示/違反報告)
rai - お、終わり⁉︎是非更新をしてくれることを願って (8月19日 22時) (レス) @page38 id: 67327e3dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふにゃた | 作成日時:2018年2月18日 19時