丗弐 ページ34
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「そう云えば、如何だい?」
ほらこれだよこれ、と小指を私の目の前でチラつかせるが何の事か判らず、首を傾げる。
「えェー!最近の若者は之じゃあ通じないンだね。あれだよ、彼氏」
『か、かかか彼氏!』
「くッ、ふふ、相変わらず面白いね」
『わ、笑わないで下さい』
そんな事を訊かれるとは思っていなくて、思わず声が裏返っていたのを笑われて仕舞った。
「で、如何なの、実際?」
「いるンでしょ、彼氏の一人や二人ぐらい」
『い、いませんよ』
「嘘だ!こんなに可愛くって、いい子だッたら普通放っておかないでしょ!」
嗚呼、其れに私を褒める趣旨の事を続けるのが恥ずかしくて仕方無い私は、手元の小説を彼に押し付けた。
『私は可愛くも、いい子でも無いです』
「んー。自虐的だなァ」
「じゃあ、好きな人ぐらいいるでしょ?」
好きな人。
十数年生きてきたけど、考えた事が無かった。
『好きな人なんて、いません、よ』
好きな人と云われて、何故か彼の人が頭の中に思い浮かんだ。
けれど実際そんな事はないだろうし、私なんかに好かれても迷惑にしかならないだろう。
「あ、今、誰か思い浮かべたでしょ」
『そそそんな事ないです』
「あーあ、そうかァ。あんなに小さかったのに、成長したンだね」
『だからいませんッてば!』
等と話していたら視界の端に映った人が此方を睨み上げる様に見ていたので、其処で漸く自分達が五月蝿い事に気付いた。
彼がコホンと、咳払いをして先刻の空気とは打って変わって図書館独特の静けさが辺りを覆う。
「あ、一寸待ってて」
そう云って受付カウンターの方に小走りで駆けていき、奥の部屋に入った数分後、彼が手に何かを持ち此方に戻って来た。
「これ、好きだったでしょ?」
そう云って私に手渡された物は一冊の本だった。
『うわァ、懐かしい』
暖かい色の装丁は処々剥げており、中のペェジは日焼けしているが、この可愛らしい絵は間違いなく私の大好きな本だった。
『でも、なんでこれ…?』
「ほら、此処。題名が消えちゃってるでしょ?だから、一寸図書館には置いておけない事になって」
「本当は廃棄しようとしてたンだけど、如何せなら貰って欲しいなッて。好きだったでしょ?」
『覚えてて、呉れたンですね』
「うん。だって、何時もどれだけ時間がかかっても図書館で読んでたのにこの本だけ借りていったし、何度も何度も借りてたのが印象的で」
そう云われたら、急に恥ずかしくなって顔を俯かせた。
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黒蜜おもち - 終わり!?おっおわ……続き、ください。。。 (3月28日 12時) (レス) @page38 id: b91ecec67d (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - 続きをお恵みください… (12月30日 21時) (レス) @page38 id: 5d2aa23f76 (このIDを非表示/違反報告)
山羊のサーカス(プロフ) - 終わり...だと...!?再度更新を願っております...! (11月25日 18時) (レス) @page38 id: 78c8c266f2 (このIDを非表示/違反報告)
かぐや - 終わっちゃった…更新して欲しいです!!お願いします… (9月8日 21時) (レス) @page38 id: 65c95105c4 (このIDを非表示/違反報告)
rai - お、終わり⁉︎是非更新をしてくれることを願って (8月19日 22時) (レス) @page38 id: 67327e3dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふにゃた | 作成日時:2018年2月18日 19時