第9話 ページ10
「……少し、落ち着かれてはいかがでしょうか」
玉座から入口まで、無意味な往復を繰り返すレンを血溜まりと漆黒の瞳の老臣が諌めた。
「お前、いつからおった」
「一刻ほど前より。往復されるのを数えるにも飽いてまいりましたので、お声掛けをと」
「用があるんやったら、早よ言えや」
力なく玉座へ戻ったレンに、彼は言う。
「先ほどから何を憂いておられるのですか」
堂々巡りの考えに、溜息をついて。
「覚えてるやんな?ショウが消えた時のこと」
「……そんなこともございましたね」
第一皇子が忽然と姿を消した、過去。憶測が飛び交う一方で懸念されたのは第二皇子の安否で。子供ながら、言い様のない緊張感に包まれたことを覚えている。
「しかし、結局皆様ご無事だったのですから」
「待て。勝手に話を終わらせんな」
肝心なのは、そこから先なのだ。
「俺は子供やったから、詳しい事情は知らん。ショウも、一回も話したことはない。けどな、無関係とは思われへんねん……あの、咬み傷は」
玄樹の首筋から、伝わる気配。
「ショウの……契約の跡、とちゃうんか」
「何故、そう思われます」
「天界への渡りやったら消えたのも道理やし、もしそうなら……理由も想像がつく。よう生きてたわ。普通、命を落とすとこやろ」
老臣は、肯定しないが否定もしない。
「お前が血溜まりをなるべく使わへん理由……
血溜まりの数が少ない理由。根っこは一緒や」
「生物が滋養を必要とするのと同じですが」
「数と頻度次第やろ。ショウは……普通やない」
力が強ければより多くの命を必要とする血溜まりは、それこそが語源で。ショウの半身である天界の血は、魔界にあっては毒になる。中和する為には生涯魔族の血が必要なのだ。
「自分を慕ってくる連中の自我が、片っ端から強すぎる力のせいで木偶になって。そうやって生き永らえる中で、昔死なせたはずの命が目の前に現れたら……どんなに」
……どんなに、救われるだろう。しかも玄樹はショウを探して召喚に応じたのだ。何を躊躇う必要があるだろう。それは分かっているのに。
「憂いは、先代の気質を色濃く引いておられるからですよ。なればこそ古参は貴方を新しき主にと望んだのです」
そこまで伝えて、老臣は脇へ引く。気配が、あった。あろうことか、玉座を前にして柘榴のゲートが開こうとしていた。
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黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話+後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます!次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます! (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問&コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒那智 | 作成日時:2019年5月1日 12時