第８話 ページ9
先代魔王の元へ天界人が嫁いだのは20年余り前のこと。力関係を均衡に保ち、子を成すのが目的だった。ほどなく、血溜まりの赤を両眼に宿らせた皇子ショウが生まれると天界人は魔界を去った。長く魔界に留まるほどに、寿命を削るからである。
だが、互いに情がなかった訳ではない。結果それが皮肉な一件となったことは、天界と魔界いずれに於いても秘密裏に処理されている。
魔王の血筋自らによる非合法な渡り。加えて天界人への無断の関わりならびに危害。それが公になれば、双方を揺るがす第一級犯罪になるのは明白だった。意識を取り戻したショウに、既に魔界へと身柄を差し戻されていた当事者に対して事件の詳細が語られることはなかった。けれど父王は、記憶を消すこともしなかった。罪の重さを担え、ということだったのだろう。ただ、それ故に。意識を手放す寸前、聞いた名は鮮明に刻まれて。
【玄樹!】
あれは、誰の声だったのか。今では確かめる術もないが、少なくとも生物としての死は免れた、ということになる。カイトの言葉を信じるなら、天界人としての生を奪った事実は消えないとしても。
「ショウ様」
音もなく、側近が控えていた。
「カイト様がお見えだったようですが」
「……それが何だ」
「いえ、ご様子がいつもと違うのではと」
玉座の間には無数の臣下が控えている。だが彼らは忠誠心を持つだけの彫像に等しい。既に自我を失っているからだ。
「お前は変わりないか」
側近は、片側に血溜まりの瞳を持っていたが耐性のない他方には仮面を被せている。元来、魔族の特性とされる瞳は金色で。他方は一族により様々に変わる。すなわち血溜まりが生まれる比率は低く、及ぶ力も高位の者には通じず、限定的であるのが常で。けれど、双眼に現れたショウは魔王の血を引くこともあり耐性を持つ者でも必要以上の影響を与えかねない。仮面は、その懸念を防ぐ目的があった。
「はい、お気遣い有り難く」
耐性を持たず、主に命を捧げるだけの木偶と化した多くの者を前に、側近は端的に答える。
「……昔、仮契約をした者がいると伝えてきた」
「それは」
「お前は、どう考える?」
今、レンの城にいる対象を。見過ごすのか。
「奪ってはいけない、理由があると思うか？」
側近は、膝を付き首を振る。
「全ては、御心のままに」
それが、選択の全てだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 97人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話＋後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (
レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます！次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます！ (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問＆コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黒那智 | 作成日時：2019年5月1日 12時
