月輪エンゲージ�� ページ37
カイトの母親は、魔界有数の名門であった。過去の話である。他者を見下す選民意識が仇となり、近親婚を繰り返した結果だ。けれども。
「……惨めなもんだよね」
禊に使った、一族の骸はそのまま放置されている。カイトの命なく勝手に処分しては我が身が危うい、とでも思ったのだろうか。
「もう要らないから、棄てて」
「畏まりました」
骸は、引きちぎれた自らの手足を貪るように咥え絶命している。カイトはその脇に散らばる黒い羽の塊を抱き上げ、言った。
「おいで」
塊は烏だった。何本もの羽を咥えていた觜が自然な形になるように介抱する。と、息絶えていたそれが目を開けた。ただ、鼓動はない。
「俺ね、２人の所には行けなくなるみたいで。だからこれからはお前が【目】になってね？」
【我ガ主、カイト様。何ナリト】
カイトに治癒力はない。だが、一族が惨殺した烏の時間を止めることはできた。つまりは、腐敗させず骸を直属の眷族にしたのである。
「良い子だね。じゃ、ショウの城へ行って？」
バサリ、残った羽根で烏は飛んだ。ショウが持つ血溜まりは、果たして骸にも有効なのかがこれで分かる。高位の魔族は低位に対し契約を結ばせることができるが、それは魔力が伴ってこそだ。だから、近親婚で一族は自滅の一途を辿った。血は穢れるほど美しいが、能力的にはリスクの大きい賭けである。事実、魔力の低下は著しく得られる眷族もまた然り。名門の面影などどこにも見当たらない。それでいて虚栄心は捨てられず、暇潰しと称し弱者を殺戮する。
「カイト」
女の声がした。振り返るまでもない。
「どこへ行っていたのですか」
「準備してたんだよ」
背中にしなだれかかる、熱。まとわりつく手を払いのけて、カイトは言った。
「俺は忙しいの」
少なくとも、先代王の意図を理解しない女に用はない。名門の出である自分が寵愛されないのが、彼女は許せないのだろうけれど。
「だから、アンタの相手してる暇ないんだよ」
「妾とカイトであれば良き子が産まれように」
衰退する名家を憐れみ、手を差し伸べた先代の心根を踏みにじり一族の血に固執する愚かな女。それが、カイトの母親だった。
「……成人の儀、楽しみにしてなよ」
吐き気を堪えて、カイトは言った。そこで、過去は精算される。闇が正しく目覚める刹那。
世界は、変わるのだ。
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黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんにちは、いつもコメントありがとうございます♪こちらのページに載せられる話数があと少しなので、最終話＋後日ネタか裏設定、後書きで締めようと思っています。最後までお楽しみ頂けるように頑張ります(^-^) (2021年3月16日 12時) (
レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます！次回最終回さみしい&楽しみに待たせていただきます。 (2021年3月16日 1時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» こんばんは★コメントありがとうございます♪いよいよ佳境でございます。伏線を回収しきれるか、頑張れ自分(笑)状態です。 (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
blackpink(プロフ) - 更新ありがとうございます。引き込まれます！ (2021年2月1日 22時) (レス) id: 2e69ab6484 (このIDを非表示/違反報告)
黒那智(プロフ) - blackpinkさん» はじめまして、こんばんは★コメントありがとうございます。訪問＆コメント大歓迎です♪励みになります。 (2021年1月18日 0時) (レス) id: 2f3a90e586 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒那智 | 作成日時：2019年5月1日 12時
