跳んで歌って舞い上がれ【2】【剣盾】

58 はじまりのうた　あなたのうた ページ11

私とホップの間に微妙な雰囲気か流れた。好きの種類が違う……?

「マリィさんからの着信ロト! 応答するロト?」
「またかいな！お願いします！」
「『もしもしネリネ、ホップと駅に急いで来て! 見つけたよ！追い詰めるよ！』」

　通話が一方的に切られ、ホップと顔を見合わせる。考えている暇は無い。とにかく走ろう!

***
　駅に着いたところで、モノレール乗り場に進むことはできなかった。それはオリーヴさんのリーグスタッフが横隊陣となり、階段の前に壁として立ち塞がっている。彼らは屈強な身体をしているから、タックルをしてもカウンターされてしまうだろう。よって強行突破は不可能だ。
　こういう時、ビートなら、ネズならどうする？考えろ、考えろ。ビートなら……周りの状態を利用するはず。でもどうやって? ここには人しかいない。私一人じゃ何もできないの……？

「ユウリ、悪いリーグスタッフを追い詰めるとはよくやりましたよ。
ネリネ、落ち着きなさい。おまえが焦っても何にもなりません。ところで、あの曲(・・・)、歌えますか？」
「えぇ。もちろん……」

　暗闇の中に光が手を差し伸べてきた。それは暖かく、優しく、脆くて儚い。光は影が濃いほど強くなる。光と影は一緒になって初めて存在できる。

「グレートですよ！
それでは、ごきげんなきみを称えて、とびっきりの歌をプレゼントです」

　ネズは私の腕を引っ張り隣に寄せた。あぁ、この感じ。初めてのライブの時みたい。あの時は一日一日が大変で、でも楽しかった。そうか。一人でできなくてもいい。二人でなら、きっとできる。

「しがないシンガーにできることは、ささやかなうたをうたうことだけ、でしょ? ネズ、ありがと。今なら最高のうたをうたえるよ。だって、あなたと一緒だから」
「……やっと分かってくれましたか。待ちくたびれましたよ。やはりネリネは笑っていたほうが素敵だ」

　私の口角を引き上げ、過去最高の笑顔を見せた。
その瞬間、私たちを纏う空気が変わった。ブレスを揃え、マイクを取り出す。ネズに言われたことがここで役に立つなんてね。

うたで だれかに エールを なんて
ほんとは ウソだよ ムリだよ
うたで だれかを しあわせに なんて
おれには ムリだよ できないよ
だけど それでも うたうよ
ささやかな うたを うたうだけだよ

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