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何も心配する必要はない、真依さんがあの男を選ぶわけがない。分かっていても、心は不快感で満ちた。
真依さんが別の男と話すと、俺達の間にある見えない糸が切れてしまいそうな感覚に陥る。もっとも、真依さんがそれを認識したことは一度もないだろうが。
顔見知り程度にしか思われていない俺にとって、その糸は生命線なのだ。どうしてもそれを守りたくて真依さんに近付く。
真っ先に俺に気が付いた加茂さんは「伏黒君、どうかしたか?」と声をかけた。しかし俺が話したいのは真依さんであって、お前ではない。
「真依さん、今時間ありますか?」
真依さんは驚いた顔をして、「少しなら」と答えてくれた。彼女の口から出てきた声が、俺の疲れを全て祓ってくれる。鮮やかな緑色が優しく包んで癒してくれる。
加茂さんは空気を読み、「じゃあ」と言って俺達から離れた。
「それで?」
「え?」
「……話、あるんじゃないの?」
何を言うべきか分からず、慌てて言葉を模索する。俺の目的は加茂さんと真依さんを離すことであり、特段話題があったわけではない。
気味の悪い汗が脇の下からじっとりと出るのを黙って我慢する。真依さんが怪訝な表情をすると、それに反応して心臓が嫌な脈打ちをした。
「銃の使い方を教えて欲しくて……」
我ながらこれは苦しい。わざわざ会話を中断させる必要も、且つ今すぐ済ます必要もない。しかも俺にそんなものは全く不要である。
真依さんも全く同じことを思ったそうで、怒気を孕んだ声で「あの術式だけじゃ不満? それとも、私への当てつけかしら?」と言った。
全身の体温が急激に下がる。冷えたスポーツドリンクが、今では真冬の雪のようだ。ならば真依さんの冷たい目線はまさにツララだろう。
信用など微塵も見せないその瞳により、俺の体は刹那のうちに穴だらけになった。空いた穴から吹き抜ける生ぬるい風にすら恐怖心を煽られる。
「私、暇じゃないの」
真依さんは俺に背を向けて、元居た所へ戻ってしまった。
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作者名:しりお | 作成日時:2021年11月27日 20時