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147episode 生きてる ページ5

Aside






……ああ。

ああ、なんだ、そういうことか。


私はじっと私の心臓を見つめる太刀川さんから、視線をそらすように下を向いた。

「…………」

太刀川さんが無言で私の左胸から手を離して、それからがさがさと自分の後頭部の髪をかく。

「……どうせなら怒ってくださいよ」

私のその声は弱々しくて上ずっていて、この人の前では絶対に出したくなかったと、唇を噛んだ。

太刀川さんはしばらく何も言わないで、それからゆっくり口を開く息遣いが聞こえた。

「俺も最初は、そう思ってたんだけどな、」

太刀川さんがいつも以上にゆっくり言葉を話す。

「お前にどんな過去があろうと、敵を殺せないやつなんてここには必要ないわけだし、」

ゆっくり、ゆっくり、太刀川さんの言葉。

「だからあのときお前に斬らせたのは、ずっと過去から進んでないお前にいらいらしたからなんだろうな」

自分のことなのに不確かな文末で終わる太刀川さんの言葉は、なんとなく息が苦しかった。

「そんで、まあ、お前が起きたらさ、言ってやりたいこといっぱいあったんだけど、」

またがしがしと太刀川さんが後頭部をかく。


「お前が起きたって聞いたら、なんか、全部どうでもよくなった」


太刀川さんはそう言って、笑った。

私は俯いたまま目を見開いて、絶対この顔を上げられないと思った。

「瀬野、お前今生きてるよな?」

本気でそういうこと聞いてくるあたり、やっぱりこの人はどこかズレてるし、でもそういうところに何度も救われてきたんだと今更思い出す。

「……生きてますよ」

自分でも、ずっと生きているのか死んでいるのか、よくわからなかった。

物心ついて人を殺したあの日から、ずっと、生きている気がしなかった。

だけどちゃんと今私は生きているんだと言えて、それはきっと私じゃない誰かがそばにいないと感じ得られないことなのだと。


なにか暖かくて大きなものが私の頭に置かれて、わしゃわしゃと撫でられた。

「そりゃよかった」

“普通の”17歳なら意識することのない自分の死が、いつでもすぐ後ろにあるこの場所は、確かに恐ろしく非道だけどでも、だからこそ、本物の生を感じられる場所なんだ。

そしてここが、この先もずっと、私の居場所であればいい。


「……太刀川さん、」

「? なんだ?」

太刀川さんの手が止まって、私は一度深呼吸をして顔を上げた。

「ありがとう」

太刀川さんが一瞬驚いた顔をして、それから「おう」とまた頭を撫でた。

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ゆう - とっても面白いです!!更新頑張ってください!! (2023年1月29日 15時) (レス) @page17 id: 619c9e8827 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - すごい素敵です…更新ずーっと待ちます! (2022年3月6日 22時) (レス) @page17 id: 57ecee7250 (このIDを非表示/違反報告)
誕生日肉 - 米屋への対応と三輪とのこれからが気になります… (2021年5月31日 13時) (レス) id: 43784786f9 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 良すぎて言葉になりません。 更新楽しみにしています。 応援してます。 (2019年12月5日 20時) (レス) id: 52a662140b (このIDを非表示/違反報告)
柚さん - 面白くって最初から一気読みしてしまいました!続きまってます!無理なさらずがんばってください!! (2018年11月26日 23時) (レス) id: d92082f045 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:瀬野 | 作成日時:2015年7月19日 21時

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