154episode 中途半端な人間 ページ12
Aside
風が一度大きく吹いて、私の髪を揺らした。
屋上のフェンス越しに見る三門市は、今日も平和に、1日が始まる。
長い沈黙だった。
今三輪は何を考えているんだろう。どんな顔をしているんだろう。やっぱり私のことも恨むかな。言わないほうがよかったかな。何か言ったほうがいいかな。黙ってたほうがいいかな。
ぐるぐるぐるぐると思考が回って回ってエンドレス。ガーガーとどこかでカラスが鳴いた。
「…………瀬野、」
三輪の声が沈黙を破る。それだけで息がしづらい。
「……なに」
なんとか声を押し出して、でも1音目がほとんど掠れてしまった。
「……お前は人を殺したのか…?」
「……そう」
殺したよ殺した。
「……殺したくて殺したのか?」
「……違う」
違うよ、そうしなきゃ私が殺されるから。
「……お前がネイバーを庇うのは、それが影響してるのか?」
「……違う」
だって同じでしょ、ネイバーもボーダーも、やってることは同じなんだ。
「……お前は、ネイバーを恨んでないのか?」
「……恨んでない」
だって私はネイバーの世界にいて、同じことをやった。だから恨めるわけもない。
「……! おい、」
三輪の慌てた声がした。
私の膝にはぼたぼた大粒の雫がシミを作っていた。
私は膝に両手をついてうつむいて、唇を噛んで両手の拳をぎゅっと握って。
『私は悪くない。だってあれは仕方がなかった』
小さく掠れた声が太ももに落ちた。ずっと目をそらしてきた。だけど私は確かにそう思っていたんだ。
私がネイバーの世界に行ったのは私の意思じゃない、勝手に連れてきたネイバーが悪い。人を殺したのも、そうしなきゃ私が殺される状況だったから。
それでも自分を人殺しにした、両親を殺したネイバーを恨まなかったのは、それが全部仕方がないこのなんだと思っていたから。
だってネイバーだって、自分の国を守るために、大事な人を守るために殺してるんだから。
「…………」
三輪はなにも言わない。
私は多分、ずっと誰かにそうだなって頷いて欲しかった。でもそれはない。頷いてしまえば、大事な人の死が仕方がなかったで終わってしまうんだ。
誰かを憎むのは、その誰かに同情しないようにするため、自分を正当化するためだ。
「……私はいい人じゃないから、だから恨んでよ」
私はネイバーもボーダーも恨めないけど。
三輪に見えるわけがないのに、私は無理やり口角を引き上げた。
作り笑いは、自分のため。
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ゆう - とっても面白いです!!更新頑張ってください!! (2023年1月29日 15時) (レス) @page17 id: 619c9e8827 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - すごい素敵です…更新ずーっと待ちます! (2022年3月6日 22時) (レス) @page17 id: 57ecee7250 (このIDを非表示/違反報告)
誕生日肉 - 米屋への対応と三輪とのこれからが気になります… (2021年5月31日 13時) (レス) id: 43784786f9 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 良すぎて言葉になりません。 更新楽しみにしています。 応援してます。 (2019年12月5日 20時) (レス) id: 52a662140b (このIDを非表示/違反報告)
柚さん - 面白くって最初から一気読みしてしまいました!続きまってます!無理なさらずがんばってください!! (2018年11月26日 23時) (レス) id: d92082f045 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀬野 | 作成日時:2015年7月19日 21時