検索窓
今日:2 hit、昨日:9 hit、合計:115,456 hit

154episode 中途半端な人間 ページ12

Aside






風が一度大きく吹いて、私の髪を揺らした。

屋上のフェンス越しに見る三門市は、今日も平和に、1日が始まる。


長い沈黙だった。

今三輪は何を考えているんだろう。どんな顔をしているんだろう。やっぱり私のことも恨むかな。言わないほうがよかったかな。何か言ったほうがいいかな。黙ってたほうがいいかな。

ぐるぐるぐるぐると思考が回って回ってエンドレス。ガーガーとどこかでカラスが鳴いた。


「…………瀬野、」

三輪の声が沈黙を破る。それだけで息がしづらい。

「……なに」

なんとか声を押し出して、でも1音目がほとんど掠れてしまった。

「……お前は人を殺したのか…?」

「……そう」

殺したよ殺した。

「……殺したくて殺したのか?」

「……違う」

違うよ、そうしなきゃ私が殺されるから。

「……お前がネイバーを庇うのは、それが影響してるのか?」

「……違う」

だって同じでしょ、ネイバーもボーダーも、やってることは同じなんだ。

「……お前は、ネイバーを恨んでないのか?」

「……恨んでない」

だって私はネイバーの世界にいて、同じことをやった。だから恨めるわけもない。


「……! おい、」


三輪の慌てた声がした。

私の膝にはぼたぼた大粒の雫がシミを作っていた。

私は膝に両手をついてうつむいて、唇を噛んで両手の拳をぎゅっと握って。


『私は悪くない。だってあれは仕方がなかった』


小さく掠れた声が太ももに落ちた。ずっと目をそらしてきた。だけど私は確かにそう思っていたんだ。

私がネイバーの世界に行ったのは私の意思じゃない、勝手に連れてきたネイバーが悪い。人を殺したのも、そうしなきゃ私が殺される状況だったから。

それでも自分を人殺しにした、両親を殺したネイバーを恨まなかったのは、それが全部仕方がないこのなんだと思っていたから。

だってネイバーだって、自分の国を守るために、大事な人を守るために殺してるんだから。


「…………」

三輪はなにも言わない。

私は多分、ずっと誰かにそうだなって頷いて欲しかった。でもそれはない。頷いてしまえば、大事な人の死が仕方がなかったで終わってしまうんだ。

誰かを憎むのは、その誰かに同情しないようにするため、自分を正当化するためだ。


「……私はいい人じゃないから、だから恨んでよ」

私はネイバーもボーダーも恨めないけど。

三輪に見えるわけがないのに、私は無理やり口角を引き上げた。

作り笑いは、自分のため。

155episode 上手くいかない→←153episode 感情の推移



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (641 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1040人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ゆう - とっても面白いです!!更新頑張ってください!! (2023年1月29日 15時) (レス) @page17 id: 619c9e8827 (このIDを非表示/違反報告)
鈴音 - すごい素敵です…更新ずーっと待ちます! (2022年3月6日 22時) (レス) @page17 id: 57ecee7250 (このIDを非表示/違反報告)
誕生日肉 - 米屋への対応と三輪とのこれからが気になります… (2021年5月31日 13時) (レス) id: 43784786f9 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 良すぎて言葉になりません。 更新楽しみにしています。 応援してます。 (2019年12月5日 20時) (レス) id: 52a662140b (このIDを非表示/違反報告)
柚さん - 面白くって最初から一気読みしてしまいました!続きまってます!無理なさらずがんばってください!! (2018年11月26日 23時) (レス) id: d92082f045 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:瀬野 | 作成日時:2015年7月19日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。