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02/あたたかな手のひらが二つ ページ2

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「はぁ……はぁ」


全く疲労の色が見えない白猫と肩で息をする少女。

気がつけば森を抜け、廃れた平地を抜け、見慣れた場所に立っていたようだ。

また戻ってきてしまったかと、足元に転がる冷たい塊、鼻につく腐敗臭に少しばかり眉をひそめた。

しかし少女よりも嫌そうににゃんにゃ、と腕を振り回しているのが白猫だった。


「疲れたなら腰下ろしな。そこな死体の背中にでも」

「!!?」


ぎょっっ、とした。

白猫に縋る思いで抱き締める力を強くする。
いつの間にか背後に立っていたその人物から距離をとり、ある程度心を整えるとキッとその人物を睨んだ。

少女の瞳が凍てついてゆく。

男は、寒色でまとめた着流しをさらりと揺らし、敵意丸出しの少女に一歩だけ、一歩だけ歩んだ。


「っ、」

「そう威嚇してくれるな」


フっ、と吐息をつくように笑う男。

その風貌からは想像もつかない穏和な表情に、抜け落ちそうになった緊張を何とか拾い上げた少女は白猫を地面に、そこにあったなまくら刀を握った。


「俺を斬るか? それも構わねェが……てめーにはもっと相応しい居場所があるだろォよ」

「………?」

「何を言ってるか分からねェ、って顔だな」


ふにゃりと肩の力を抜いた少女。

脈絡も何もなしに、男は少女の目の前まで歩みを進めた。

刀身を地面に下ろしたまま、すっかり戦意を削がれた少女は自分の髪に手を伸ばす端正な顔を見上げてみた。


「心配はいらねェ。てめーになら、何だってできるさ」

「……ぁ、」


───背中から「見つけました」と低い声。

また、ぎょっっっ、と振り返ると頭に触れていたあたたかな手のひらが消えていった。

かわりに少女の前には曇りひとつない太陽のような笑顔があった。

曇天の空、白黒にだって見える情景の中でその男性の笑顔だけが色彩を持っているよう。

さっきの男の人は、と微笑みを崩さない男性をそっちのけでキョロキョロ。白猫は男性に熱い視線を送ってじーっと。

していたら、男性がぷっと吹き出した。


「っふ、いや……すみません、ずいぶんカワイイ鬼がいたものだと思って」


カワイイってなんだろう、少女は怪訝そうに身体を傾ける。少女は悲観的、侮辱の言葉しか知らない。これまで散々浴びせられてきた罵声しか知らない。

だから、カワイイなんて女の子にとって一番の褒め言葉を言われたのは人生初。


「どうです、カワイイ子兎さん。私のもとへきませんか?」


また、あたたかな手のひらがのった。

03/あ、り、が、と、う。→←01/白猫は不潔、黒猫は不吉



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佑依佳 - 万屋よ永遠なれは書かないんですか (5月8日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
佑依佳 - すごく良かったです。パスワードを教えてくれませんか (4月15日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
LIARPIERROT(プロフ) - こちらの作品のパスワードは作者様が作者ページに掲載してらっしゃいます。確認してからコメントしましょう。 (12月21日 20時) (レス) id: 7068d0a9b2 (このIDを非表示/違反報告)
- 初めて読みました。とても感動して続きを読みたいと思いました。なので続きを読ましていただきたくパスワードを教えてくれないでしょうか?これからも頑張ってください!! (11月19日 15時) (レス) id: fd0a1b2f31 (このIDを非表示/違反報告)
菖蒲 - 続きを読みたいのですが、パスワードを教えてくれませんか? (10月20日 12時) (レス) id: de6a447dfa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:糸針 | 作成日時:2018年9月21日 23時

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