禽も困しめば車を覆す

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通信アプリの連絡先を交換してすぐにあの人はAに媚びを売るのに必死だった。

QuizKnockとリアルで繋がる理由を探していたところに、タイミングよく、QuizKnockにいるのがおかしい平々凡々に見えるライターアイの正体が分かったのだから。

このチャンスは逃すわけにはいかないと思ったのだろう。

ライターアイをうすくうすーく向こう側が透き通るんじゃないかと思うくらいの表面だけを褒める文章を通信アプリでマメに送ってきて、こちらも上辺だけで喜ぶフリをする。

上辺だけでも仲良くしておかなきゃならない…という下心は相手だけじゃなく、お互いとも持っていて水面下で動いていたと思う。

向かい合って話すのはAに精神的ダメージをかなり及ぼすが、あいつの中身がすかすかな文字との会話はなんの感情も溢れ出さず、とてもとても気楽だった。

だけどAが思っている計画には直接的な接点が重要で、通信アプリでのやり取りだけで終わる訳にはいかなった。


それが必要となるタイミングは案外早く、そして、向こうからやってきた。

QuizKnockが新オフィスに移り、Aの不本意な炎上が落ち着いた頃、QuizKnockが新たに制作人員を募集するという話が出た。もちろん、そこにはライターの枠もあった。

そのライターの1枠を狙うあの人から連絡があり、そして今日…。

昨夜から今日のことを考えると、頭はガンガンするし、お腹は痛くなるし、全然寝れなかったA。

会うことを約束した食堂のトイレで相変わらず今日も顔色の悪い自分が鏡に写っていた。気合いを入れるように目に力を入れると鏡の中のAも咎めるような視線を投げ返してきた。

化粧ポーチからデパコスで買ったAの持つ化粧品の中では一番高価なブラウンリップを唇に塗り直し、戦場へ向かった。

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