【場地圭介】狼さんは孤独がお好き (ページ27)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:17,225 hit

2 5 話ページ27

その日の澪は、いつもに比べ体調がすこぶる良かった。

だからだろうか、私が家を出るのに気付いたのだろう。

喧嘩をしている最中｢お姉ちゃん！｣なんて声が聞こえたもんだから、私は思わず声の方へと視線を向けてしまった。

｢総長！｣

隙きができた私に、相手が飛びかかってくる。

上手く受け身を取れずふっ飛ばされたが、あまり痛みはない。

｢お姉ちゃん........だいじょ、ぶ？｣
『澪！』

澪が私を庇ったのだ。

呼吸の音がいつもと違う。

ふっ飛ばされた衝撃で、発作が起こってしまったらしい。

『澪、落ち着いて。ゆっくり呼吸して。今救急車呼ぶから..... 』
｢おね、ちゃん........ ｣

服の裾を摘まれて、携帯の画面から顔を上げる。

｢お姉ちゃん.....約束して？｣
『やく、そく.....？』
｢うん........こういうこと、しないでとは、言わない......でも、勝てない喧嘩はしないで......？勝てないと思ったら、逃げて....... ｣

その言葉を聞いて、澪は私がこういうことをしていることに薄々勘づいていたのだと察した。

澪は私の銀髪に触れると、寂しそうに笑う。

｢折角お母さんからもらったこの髪が........赤になっちゃうのはやだよ.......ねぇ、約束、だからね.....？｣

聞き流しちゃいけない気がして、携帯から手を離し、澪の手を強く握る。

あそこですぐに救急車を呼べば、澪は生きていたかもしれない。

澪は私が頷いたのを見ると、満足そうに笑って.....死んだ。

魔天狼を創立したのは、人数が集まればそれだけ大人数と喧嘩ができ、お金が集まると思ったから。

澪がいなくなった今、魔天狼が存在する意味も、私が喧嘩を続ける理由も、ない。

私は魔天狼総長を引退し、魔天狼を解散させた。

その時に気付いてしまったんだ。

自分が、大して強くもないことに。

そして誓った。

どうせ守れないなら.....もう大事な人は作らない。誰かの為にこの拳は振るわない、と。