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ミーンミーンミーン
……うるさいな。
セミの声でハッと目を覚ますと目の前には、見たことのない板書。
書かれている内容から判断すると、今は古典の授業みたいだ。
どうせ次が昼休憩だから、お腹空いたなとかお弁当何だろうとか、どうでもいいこと考えていたんだろうな。
完全に意識を失っていた私は、慌てて途中からの分だけでもとペンを走らせた。
でもそんな私の努力も空しく、先生が黒板消しを手に取って、豪快に黒板の上を走らせた。
さらに何を書いているのか分からなくなってしまったノートを前に呆然としていると、隣から視線を感じた。
左を向くと、佐倉くんが私の方を見つめていた。
ノートを指さして「ノート？」と口パクで聞いてきた。
私が小さくうなずくと、佐倉くんもうなずいて、再び前を向いてシャーペンを持ち直した。
もしかして、佐倉くんに寝てたのバレた……？
その可能性を否定できないからか、私も佐倉くんと同じように授業に集中しようと思ったけれど、隣が気になってしまった。
そのおかげで、授業は何をやっているか理解不能だったのに、全然眠気は感じなかった。
その日の昼休憩にお弁当を食べ終わってリラックスしていると、佐倉くんが私にあるものを差し出した。
「A」
「はい」
突然名前を呼ばれて、びっくりして大きめの声で返事してしまった。
「いい返事。全部書いてるから。貸す」
表紙に佐倉くんの字で「古典」と書かれたノートだった。
「借りる。ありがとう」
「授業寝てて板書写しきれてなかったんだろ」
「うん、まあ……」
全部お見通しだったんだ、やっぱり。
「佐倉くんは眠たくなかったの？」
「うん。今日の百人一首の歌の解説、面白かった」
「そんなことしてたんだ？割と最初から寝てたから、何も知らない」
「どっちがかるた部だよ」
「あっ……」
軽口を叩かれるのだって、一ミリも嫌みを感じさせない佐倉くんなら、笑って答えられる。
うだるような暑さの中、真近くで鳴いているセミも気にならなかった。
汗がキラリと光る佐倉くんのうなじが、燦々と照り付ける太陽よりも眩しく輝いていた。
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