検索窓
今日:6 hit、昨日:6 hit、合計:28,142 hit

六話 ...糸... ページ8

あれから数日。

彼の病状は悪化していく一方で。
咳がひどく、彼は日に日に弱っていく。
それでも、私の前では心配させまいと笑っていた。
立ち上がることも辛くなってきたようで、最近は寝たきりになっていた。

時折激しくむせこんで、血を吐き出す。
私が慌てて駆け寄ると、必ず微笑みながら 大丈夫 と囁いた。


私は何もできない。
彼に変わって、苦しむこともできない。
ただの無力な、そう、無力な...。


そう思うと必ず涙が流れた。

薬を買いたくても貧しい二人暮らし。
買えるお金なんてこれっぽっちも持っていなかった。

助けたい。
助けたいのに。

私はない頭で、彼を助ける術をで精いっぱい考えた。


ふ、と。
今まで開けたことのない戸を開ける。


「...これ。」


そこには機織り機があった。
それを見て、思いつく。

これなら。


「これなら...助けられる...?」


私は自らの両手を眺めた。

私の本来の姿なら。
私が犠牲になれれば。

大丈夫。
今度は私が救う番。

私はいそいそと出かける準備をし、糸を買いに市場へ向かった。




「ふぅ...」

ため息をついて、我が家の床にへたり込む。
やっと手に入れた糸は、私たちにとってかなり高価なものだった。

これでやっと準備が整った。


私は、彼の様子を見に寝室に向かった。

静かに寝息を立てて眠っている彼。
わきに置いておいたおかゆも無くなっていて、薬もちゃんと飲んでくれているようだ。
なんとなく、安心した。

そっとわきに座り、頭を撫でる。
ピクリ と、小さく反応したので、少し手をひっこめる。

「...寝てる...か。」

再び頭を撫でる。
しばらく、頭を撫でていると。


「...ん」

「あ...起きましたか」

「...いつの間に」

「少し前から...ですね」


なんとなく、まだ幸せだったころの会話を思い出して、泣きそうになる。
真逆の立場だったっけ。
そんな前の事でもないのに、とても懐かしく感じる。

感傷に浸っていると、そっと頬を撫でられる。


「...また泣いてる」

「...。」

「ごめんね、必ず治すから。」

「...はい」

「そしたら、一緒に星を見よう」

「...っうん」

「だから、...泣かないで」

「...っうん...うんっ」

いつかのように私の涙を掬い、また眠りにつく彼。


そんな彼の寝顔を眺めながら、私は小さく誓った。






―――――貴方の命を絶対に散らせたりなんかしない。――――――

七話 ...手...→←五話 ...病...



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (78 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
35人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

近所迷惑さき - とってもいい歌ですよね〜。今でもまだ聴いてます。聞いた時、あれ?これボカロなのか!?とビックリしたので、自己解釈を見て、意味を知りました。 (2022年3月27日 7時) (レス) id: 51e47c3894 (このIDを非表示/違反報告)
Mirror Sound - 素敵な、物語です!私は、元々「四季折の羽」が大好きだったんですけど、この自己解釈を読んでからもっと好きになりました!できれば、違う歌の解釈も沢山書いてほしいです。 (2016年1月13日 15時) (レス) id: 863d51c1e2 (このIDを非表示/違反報告)
Yukine.(プロフ) - ×××さん» こちらこそ、素敵な作品をありがとうございました。私も貴方の作品が大好きでした。そんな素敵な作品に私のイラストを添えていただけて本当に嬉しかったです。本当にありがとうございました。 (2015年7月14日 22時) (レス) id: dd995b6485 (このIDを非表示/違反報告)
×××(プロフ) - こちらに失礼します。度々イラストを描いてくださり、ありがとうございました。あなたの絵が大好きでした。本当に、本当にありがとうございました。 (2015年7月14日 21時) (レス) id: 9c0f93981b (このIDを非表示/違反報告)
Yukine.(プロフ) - Misakiさん» コメントありがとうございます...!!好きといっていただけてとてもうれしいです。 (2015年2月25日 20時) (レス) id: dd995b6485 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:Yukine. | 作成日時:2014年1月26日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。