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十話 ...命... ページ13

ようやく手に入れた。
これであの人を救える。
やっと幸せな生活が戻るんだ。

「...もう少しっ...」

薬を胸に抱え、寝不足と疲労で震える足を叱咤して、家に急ぐ。
もう少し、もう少しで。
貴方の命を絶対、絶対に


枯らせたりしない。


家に近づくにつれて気持ちが膨らんでいく。
この坂を上れば。
駆け足で家に向かう。

「ただいまっ帰り...ました...」

扉をバンッとあけて、彼に声をかける。
返事はない。
何か嫌な雰囲気。
少し、少しだけ嫌な予感がする。

うっすらと鉄臭い匂いが漂う。
彼に近づくたび、それは濃くなっていって。
彼の顔を覗き込むと。

「...っ貴方!」

「あぁ...お帰り...り、ん」

口から大量の血を流して、倒れていた。
今までに無いほどの出血量。
まずい。
彼の命は風前の灯火。
早く、早く薬を...!

「貴方、待っててすぐに薬を...」

用意しますから。
続きは言えなかった。
優しく口付けされたから。
でも、それは鉄の味で。
それでも彼は幸せそうで。
何故だか涙が溢れてきて。

あぁ、駄目だ、また泣いてしまうと、彼が、蓮が心配してしまう。

涙をとめなくちゃ。

止まれ、止まって。
思いと裏腹に涙は止まらない。

静かに唇を離した彼は、今まで見たことのないような綺麗な、とても綺麗な笑顔で言った。


「鈴、泣か、ないで...僕は、...幸せだよ...?」


途切れ途切れに、紡がれた言葉。
私は何も言えずに、聴いていた。

「こんな、僕の為に、...ありがとう」

「...いいえ、貴方は私に沢山のものを与えてくれた、これくらいじゃ返せない程。絶対に、貴方の命は絶たせたりしませんから」

立ち上がろうとすると、裾を掴まれる。


「頼む、そばに、いてほしい。」


...あぁ、もう、わかってしまった。
薬なんかじゃもう助からないんだ。
彼は、もうわかってしまっているんだ。

もっと早く、薬を買えていれば。
もっと早く、機を織っていれば。
もっと早く、病に気付いていれば。

もっと早く、もっと早く。


「自分を、責めないで」


考えを汲み取ったのか、彼は消え入りそうな声で言う。


「君は僕の為に、頑張って、くれた」

「僕の為に、笑ってよ」


冷たい、氷の様に冷たい手が頬を撫でる。

私は、涙を拭って、精一杯微笑んだ。

それを見ると、彼は満足そうに笑って、言った。


「...ありがとう、鈴。」


最期に、そう言って。
目を、閉じた。
彼の手から力が抜ける。

「あ、あぁ、あああ...」

涙が溢れだした。

十一話 ...羽...→←九話 ...影...



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近所迷惑さき - とってもいい歌ですよね〜。今でもまだ聴いてます。聞いた時、あれ?これボカロなのか!?とビックリしたので、自己解釈を見て、意味を知りました。 (2022年3月27日 7時) (レス) id: 51e47c3894 (このIDを非表示/違反報告)
Mirror Sound - 素敵な、物語です!私は、元々「四季折の羽」が大好きだったんですけど、この自己解釈を読んでからもっと好きになりました!できれば、違う歌の解釈も沢山書いてほしいです。 (2016年1月13日 15時) (レス) id: 863d51c1e2 (このIDを非表示/違反報告)
Yukine.(プロフ) - ×××さん» こちらこそ、素敵な作品をありがとうございました。私も貴方の作品が大好きでした。そんな素敵な作品に私のイラストを添えていただけて本当に嬉しかったです。本当にありがとうございました。 (2015年7月14日 22時) (レス) id: dd995b6485 (このIDを非表示/違反報告)
×××(プロフ) - こちらに失礼します。度々イラストを描いてくださり、ありがとうございました。あなたの絵が大好きでした。本当に、本当にありがとうございました。 (2015年7月14日 21時) (レス) id: 9c0f93981b (このIDを非表示/違反報告)
Yukine.(プロフ) - Misakiさん» コメントありがとうございます...!!好きといっていただけてとてもうれしいです。 (2015年2月25日 20時) (レス) id: dd995b6485 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Yukine. | 作成日時:2014年1月26日 17時

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