39.愛があれば ページ5
花さんは、ケーキ作りを教えてくれることを快諾してくれた。
約束した金曜日、仕事を終え急いで帰る用意をしていたら村上さんが近づいて来た。
「そんな急いでデートか？」
「違いますよ」
「…彼氏、元気？」
「元気ですよ？」
「あっそ。
…デートちゃうんやったら、ちょっとだけ飲みに行かへん？」
「すみません、今日は先約が」
「そうかー…ほなまたな」
そう言うと村上さんは手をひらひらさせて行ってしまった。
なんだろう？
この間から何か言いたそうな。
「あ、急がないと！」
約束の時間に遅れそうになって、私は急いで店を出た。
花さんの家は、必要最低限の家具しかないシンプルな部屋で。
その代わりキッチンには見たことのない道具がたくさんあった。
「どんなケーキにする？」
花さんに聞かれて、うーん、と考える。
「初心者なのであんまり凝ったのはできないし…普通の生クリームの丸いケーキがいいかな」
「うんうん、そしたらデコレーションで飾るよりも、きれいにナッペして…」
「ナッペ？」
「生クリームをきれいに平に伸ばして。
苺とかラズベリー、ブルーベリーなんかをたくさんのせたら、ちょっと大人っぽく見えるかも」
「うんうん」
「プレートは絶対手書きだよ」
「え⁈書けるかな？」
「うまく書けなくてもいいの。
気持ちが大事」
そう言ってにっこり笑う花さんの笑顔は、相変わらず何の曇りもなくて。
見とれるくらい、きれいだ。
バターや砂糖を計ったり、小麦粉をふるったりしながら、スポンジケーキを作る。
「おいしくできるかな」
「絶対大丈夫！」
「絶対って」
花さんがあまりにも自信まんまんなので、笑ってしまう。
「愛情があれば、絶対おいしいの。
見た目は多少悪くても」
花さんが卵を割りながら、優しく言う。
「私ね、職業柄今までたくさんおいしいケーキを食べたけど。
今でも小さいころ母親が作ってくれた誕生日ケーキを超えるものは食べたことがないよ」
小さい花さんが、キラキラした目でお母さんが作ったケーキを食べる場面を想像すると、顔がほころんだ。
「Aちゃん、雅紀くんに愛情あるんでしょう？」
「…ある、よ。たくさん」
「じゃあ絶対大丈夫」
雅紀くんの喜ぶ顔を想像してみる。
目尻にきゅってシワ寄せて、顔中で笑う顔。
なんだか急に雅紀くんに会いたくなって、
それをごまかすみたいに生地を混ぜる手に力をこめた。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年12月16日 18時
