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「つ、着いた……」
駅から全力疾走だったため随分と息があがっている。
何とか息を整え、ついでに乱れた服と髪も整えた。
まるで、絵本から飛び出してきたみたいな赤い屋根の建物。それを囲むのは、風車の形がワンポイントに象られた鉄製のフェンス。玄関へとつづく石畳の側とフェンスには、あの頃と変わらず満開に咲く花々が春風に揺られていた。
ここの花は元常連さんが面倒みてくれていると、風の噂で知っていた。
だけど、なんとなく、花達は淋しそうだ。まえはいつ来ても人で賑わう場所だったからそう思うだけかな……
「鍵は……」
おばあちゃんの遺品整理の時、ここの鍵は私が預かった。近しい親族は私と母さんの2人だったため、私が預かることとなったのだ。
「あれ、どこだ?」
バッグの中は私物が乱雑に散らばっていた。バッグの外側にあるポケットも見たが、鍵が見当たらない。ついでに、ハンカチも無かった。
忘れた?でも確かにポケットに入れたはずなんだよね。ハンカチと一緒に突っ込んだから一緒に落としちゃったかな。
落としたとしたら好青年とぶつかった時である。
「戻るしかないか。」と溜息をつき、さっきの場所へ歩き始めた。
が、
「無いか……」
先程の場所まで戻ってきて、周りを見渡してもそれらしきものは無かった。
どうしたものかと、スマホを取り出す。母さんとの約束の時間まであと少し。探すのは無理だろう。
もしかしたら、さっきの人拾ってくれたのかも。母さんに一度事情を説明してから探しに行こう。
そう考えながら私は再び『風車』へと向かう。
赤い屋根が見え始めたところで、誰かが玄関先にいるのが見えた。
母さんじゃない。誰だろう、下見の人……?
怪訝に思い、足を早めた。
「あの、下見の方ですか?」と、近くまで行って恐る恐る声をかけてみる。丁度庭へまわろうとしていた彼は、少々びっくりした様子で澄んだ冬の空のような綺麗な瞳をぱちくりさせた。
「ああ、えと、すみません……俺は、」と、申し訳なさそうに眉を下げる彼の表情を見て内心「違うのかな?」と思いながら、言葉を待つ。
「下見ではなくて、たまに、ここの花の世話をしている者なんですが……」
花の世話ってことはこの人が元常連さん!?
とても綺麗な顔立ちの人だ。常連さんって聞いてたからもっと上の世代の方かとばかり思ってた。
しばらく返答の無かったからか、「あの……?」と気まずそうに声を出す。
「驚かせてしまってすみませんでした!」
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作者名:ねんねこ | 作成日時:2021年1月21日 22時