風車の花【A3!】 (ページ3)

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私は最小限の荷物だけまとめて家を出た。
天鵞絨駅まで十数分といったところか。

とにかく母さんより先に『風車』に行って直談判しよう。
というか、あの人よく私に「また借金したんだよねてへぺろ」的なテンションで電話できたな……まあ昔からそういう人だったか。

今日は休日だが、電車内は意外と人が混みあっていた。

そういえば、最後にあそこに行ったのはおばあちゃんが亡くなった時の遺品整理のためだったかな……

『風車』は、おばあちゃんのやっていた民宿兼定食屋のような場所だ。ビロードウェイの奥地にある赤い屋根がトレードマークの小さな民宿だったが、そこはいつも人で賑わっていた。観劇にきたお客さんはもちろん、ビロードウェイの劇団員たちにも愛された憩いの場所である。

お父さんが生きていたころはほぼ毎日と言っていいぐらいには『風車』に通っていた。訪れる人々は温かい人ばかりで、アットホームな雰囲気が大好きだった。

玄関先では一年中、ずっと満開に咲く花が出迎えてくれる。おばあちゃんがとても丁寧に繊細に花を愛でる姿がふと脳裏に浮かんだ。
あそこであった全ての出来事が私にとって唯一の幸福な記憶なのに……

「次は天鵞絨駅……」
電車のアナウンスが鳴った。
人が沢山いるはずなのに妙にはっきりと耳に届き、ぼんやりとしていた意識が直ぐに覚醒する。
扉が開くと同時に私は駆け出した。
やっぱり『風車』を売るなんてありえない！絶対にやめさせないと！

行き交う人をかき分けながら、走る走る走る。
ああ、もう、人多いな……！
焦れったくなり人通りの少ない小道に入った。
そこの曲がり角を曲がってあとは真っ直ぐ行けば……！

ドンッ

という衝撃で私は誰かとぶつかったことを瞬間に理解した。

「ご、ごめんなさい！オレ、前見てなくて！」
ぶつかったのは赤い髪の、少し幼い感じのする男の子だった。

「いえっ、私も急いでいて周りを見ていなかったので、すみませんでした。失礼します！」
早口でそう言ったあと頭を勢いよくぺこりと下げ、私は再び急ぎ足で『風車』に向かった。

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風車-かざぐるま-
Aの父方の祖母がやっていた民宿兼定食屋。
ビロードウェイの劇団員や観劇にきたお客さんで賑わう人気の場所。
ある花がたくさん咲いている玄関先は観光名所の一つである。一年中いつ来ても満開に咲いている。
裏設定:屋内の小さな舞台でパフォーマンスをするとご飯がちょっと安くなるサービスがある。