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「驚かせてしまってすみませんでした！」
とにかく謝ると、目の前の元常連さんは「そんな、頭をあげてください。」と、こちらを伺う。
「私ここのオーナーの孫で、野咲Aといいます」
「え？お孫さん？」
「そうだったんですね！」とたちまち表情を明るくさせる彼。あまりに綺麗で少しドキリとした。こういうのは慣れていない。
「俺は月岡紬です。『風車』にはとてもお世話になっていました」
「じゃあ、あなたがずっとここの花を？」
「はい、お世話になった恩を返したいと思って」
「ちょうど園芸が趣味だったのもありますけど……」と笑う月岡さん。久しぶりに花達をみてあの頃に戻ったみたいだなと思えたのは彼のおかげだったんだ。さっきお花が淋しそうに見えるとか思ってごめんなさいと心の中で謝っておいた。
「野咲さん、そういえばさっき下見って言っていたのは？」
そうだ、下見の人と勘違いしてしまって声をかけたんだった。私は、母の借金のことは伏せて当たり障りないように話を伝える。
「……というわけなんです。ですけど私、ここは誰にも譲れないんです。とても大切な場所だから」
つい熱くなって私個人の問題を初対面の人に真剣に語ってしまった。私が話を終えると月岡さんは口を開いた。
「じゃあ、俺も出来る限りのこと協力します」
「……」
同情か諦めの言葉が来ると思っていたからか、驚きで声が出ない。
「俺にとっても『風車』は大切な場所です。失いたくない」
「だから」と言葉を続けようとするのを遮るかのようにプルルルルと携帯がなる。
「…………すみません、俺、予定が入ってしまって」
「でしたら安心してください。月岡さんがお世話してくれていたお花、絶対に誰にも渡しませんから」
そう伝えた時の月岡さんの表情は驚き、でも嬉しさも含んだそんなふうに見えた。
今の言葉、ちょっとくさかったかな。私イケメンの素質あるかもなんて思っていると月岡さんはゆったりと私の近くまで寄ってくると私の手をとり、いつの間にか書いていた番号の紙と一緒に自分の手を握らせた。
「俺にできることがあればいつでも連絡してください」
普通に渡すと私が断るかと思ったからだろうか……イケメンなのは月岡さんの方だった。
そして彼は「それでは、また」なんて笑って行ってしまったものだから、これでは絵本に出てくる王子様だ。
月岡さんは控えめな印象だけど、うちに秘める想いは熱い人なのだろうか。
「って、この番号どうしよう」
続く
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作者名：ねんねこ | 作成日時：2021年1月21日 22時
