それぞれの目的(五頁) ページ47
「(いけない…、秀一くんを助けないと…っ)」
霊力を高め失いかけた意識を取り戻す。その間にも妖獣は秀一くんの直ぐ側まで来ていた。
「僕が悪かったよ、ごめんね。でも…関係ない町の人を殺しちゃいけないよ…。僕が憎いなら、僕だけを…！！」
「秀一くん！！」
私が駆け出したのとほぼ同時だった。一度は躊躇ったような素振りをみせた妖獣だったが体内から伸びてきた触手のようなものが秀一くんを取り込み、私の方には再び尻尾が振りかざされた。秀一くんは妖獣の体内に引き込まれてしまい、私も鵺野先生のように建物の壁に叩き付けられてしまった。
「A先生！！」
「鵺野…先生…」
復活した鵺野先生に体を支えてもらい、私は建物の壁に背中を預けて座り込んだ。体のあっちこっちが軋むように来る痛みに思わず顔を歪めてしまうと、鵺野先生はそんな私を見て玉藻先生に怒りを覚えたのか歯軋りをし何も言わず玉藻先生の元へ向かって行った。
あんなに怪我をしているのに鵺野先生の霊力は格段に上がってきている…。なのに、私は…。その背後を見た際に感じた鵺野先生のその霊力の高さと己の不甲斐なさが天秤になる。
そんな中、鵺野先生は玉藻先生に拳を突き立てた。
「よく聞け、玉藻！人間は何人死ねば何人助かるなんて数で考えたりしない。目の前に命が危ない者がいれば、何も考えず無意識に助けようとするものだ！自分の命も顧みずにな！そこには計算なんてないんだ、おまえは…人間の心がちっともわかっちゃいない！」
鵺野先生は玉藻先生に叱責すると鬼の手を露にし妖獣の体内に引き込まれてしまった秀一くんの元へ駆け出した。硬く覆われた甲羅の中に秀一くんの姿が見えたが、鵺野先生の鬼の手でも妖獣の甲羅はびくともせず…。
一方の玉藻先生は、そんな鵺野先生を茫然と見詰めていた。鵺野先生に言われた言葉を脳裏に復唱でもしているのか、その表情はとても思い詰めていた。
すると、びくともしない甲羅への攻撃を止めた鵺野先生がスクリと立ち上がる。まさか…っ。
生徒の為に命を投げ出す鵺野先生なら安易にそれが予測出来た。私はおもむろに体を奮い立たせると鵺野先生の元へ。鵺野先生は左手の鬼の封印を解き放ち巨大なその妖力で秀一くんを意地でも助けるつもりだ。
そうなってしまえば、今度は鵺野先生自身も危ない。秀一くんが助かっても鵺野先生の体は…。
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作者名：紫亜 | 作成日時：2019年10月12日 22時
