妖弧、玉藻(五頁) ページ5
「ひろしくん…！！」
既に日は暮れ、辺りが暗闇に落ちたころ私は漸くひろしくん達の発見に至った。しかし、その場面は斧らしきものを妖弧がひろしくんに振りかざそうとした時だった。
私の声に武器を下ろした妖弧の前にすかさずひろしくんを庇うようにして対峙した。しかし、恐怖で体が震えてしまう…。
「A先生…！」
「ひろしくん、鵺野先生は…」
ここはごみ処理場で辺りに鵺野先生の姿はどこにもなかった。目を伏せ落胆するひろしくんの様子から、私は意味を察すると妖弧に振り返り悔しさから歯軋りをした。
「…そのお姿が貴方の正体ですか、玉藻先生」
「貴女は同学年の先生…。ここがわかったということは、貴女も鵺野先生と同じ力の持ち主ということですか」
「残念ながら期待に添えるような力は私にはありません。ですが、貴方の強力な妖気を辿って来ました。ひろしくんは、渡しません」
「この私に勝算がおありだと？たかだか妖気を辿ったぐらいでいい気ににらないでほしい。貴女が感じているのは４００年も前から生きた妖弧の妖気、その力は計り知れないものだと十分その身に感じているハズですよ。辿って来たなら鵺野先生がどうなったかわかっているはずです。貴女も鵺野先生のようになりたいんですか？」
「先生…っ」
後ろで両手を鎖で縛られているひろしくんが私を呼び不安を滲ませた。私は震える体を奮い立たせて、それでも立ち向かう姿勢は変えなかった。
「鵺野先生は今まで沢山の生徒達を救ってきたんです。生徒を守るのは教師の使命…鵺野先生のその背中を見て、そう教えられたような気がします。たとえ、私に鬼の手のような力がなくても…」
「！」
今まで霊や妖怪達と戦う鵺野先生の背中を思い出し冷静になると、震えていた体は収まりスッと肩の力が抜けた。そして妖弧を真っ直ぐと見据えると私は言葉を紡ぐ。
「…悲しい妖怪だわ。貴方は４００年も前から生きていて、人間のことを何も知らないのね」
「戯れ言を…」
それまで余裕の笑みを浮かべていた妖弧が一瞬冷静さを欠けた、その時だった。
「待て！！」
「！」
「まさか…っ」
鵺野先生の待ったの声が届き、その場の空気が一変した。暗闇のごみの間から少しずつ傷だらけの先生の姿が現れ、先生の登場に私とひろしくんの顔には笑みが浮かんだ。
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作者名：紫亜 | 作成日時：2019年10月12日 22時
