人間の愛(二頁) ページ26
「(来たはいいけど、玉藻先生予想通りの滑走だな…)」
翌日、稽古を休んでゆきめちゃんからもらったスケートリンクの無料券を使って私は玉藻先生とスケートリンク場に来ていた。そこで目の辺りにしたのは華麗にリンクの上を滑る玉藻先生の姿。
まるでスケート選手のような滑りにパートナーを置いて周りの女性達の視線を独占している。罪深い…。
一方の私はというと、さっきから入り口付近にしがみついてリンクに入れず震えている。玉藻先生とは天と地の差だ。そう、これから滑るのは今日が初めてで、いざリンクの上に立とうと足元を見てゴクリと喉が鳴る。
「何してるんですか？」
「！！」
慎重に足を踏み入れようとした際、いつの間にか滑走を止めてきた玉藻先生に声をかけられ思わぬタイミングでリンクに足を踏み入れてしまった。離してしまった手をバタつかせ慌てて入り口付近に戻ろうとするも、ツルツル滑って戻れない。
「わあ、わあ…！」
「もしかして先生、滑ったことがないんですか？」
直ぐ近くで玉藻先生の声が聞こえたかと思えば、いつの間にか玉藻先生の腕の中にいた。慌てて離れようとしたが、また足元がツルツル滑って結局玉藻先生の腕に逆戻りする。こ、怖すぎる…！
「す、滑ったことがなくて悪かったですね…っ。わわっ！たっ、玉藻先生、腕そのまま離さないでくださいね…！」
恥を忍んで頼み込むと、やれやれと言った反応で返ってきたが玉藻先生は私の手を引いてそのまま前進するように誘導した。
ここでも玉藻先生に稽古をつけられている気分だった。結局最後まで手を引いてもらい、自動販売機の前にあるベンチでその自分の不甲斐なさを思い出して落胆しているとシューズを脱いできた玉藻先生もやってきた。
「貴女は自分が滑れないと分かっていたのに、どうしてスケートに私を誘ったんですか？」
「えっ…」
思わず顔を上げると、またあの表情がそこにはあった。私の真意が分からなくて私を探ろうとする真剣な顔だ。
「…お礼のつもりだったんです」
「お礼？」
「なんだかんだと、いつも私に霊力の稽古をつけてくれたじゃないですか。無料券を友人からもらった時に、そう考えたんです…」
思わず本当のことを言ってしまった。これがお礼のつもりでやったことなんて言うつもりは本当はなかったのに、玉藻先生があまりにも真剣だから…。
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作者名：紫亜 | 作成日時：2019年10月12日 22時
