人間の愛 ページ25
「ええ！スケートの無料券を私に？」
「はい〜！ぜひ誰かとご一緒に遊びに来てくださいっ」
数日後、鵺野先生に会いに童守小学校へ訪れて来た雪女ことゆきめちゃんから思わぬプレゼントをもらった。それはゆきめちゃんが働くスケートリンク場の無料券２枚だった。
先日、ゆきめちゃんは鵺野先生と生徒達と滑ってきたらしく、それが余程楽しかったらしい。思い出すように語ったゆきめちゃんは体が溶けそうなぐらい熱々な時間を鵺野先生と過ごしたようだ。恋する乙女だなぁ。
「でも、私スケートなんてしたことないけど大丈夫かな…？」
「大丈夫ですよ〜！お誘いする相手は滑れる方ですか？」
「えっ。えーと相手って…」
「もう、やだぁA先生ってば〜。私と鵺野先生みたいなカップルで、A先生の想い人のことですよ〜っ」
「想い人…」
鵺野先生とゆきめちゃんいつカップル成立したっけ？というツッコミはこの際さておき、何故か玉藻先生の姿を脳裏に浮かべた私は直ぐにそれを掻き消した。違う違う…！
「先生赤くなっちゃって、やっぱり誰かいらっしゃるんですね〜？」
「ち、違うよ！その…日頃お世話になってる人というか…」
口ごもって思わずもらったチケットに視線を落とした。そして、思い出すのはやっぱり玉藻先生のことで…。
「…ゆきめちゃんは、人間の鵺野先生にどんなに突き放されても分かり合いたいってそう思う…？」
「え…っ」
気持ちを探るような言葉に、ゆきめちゃんの大きな瞳が揺れた。
先日、玉藻先生に私のことを知る権利があると言われた時、玉藻先生のことが突然分からなくなった。敵なのにあの時に向けられた真剣な眼差しは、とてもじゃないけど自身の力の為に私を知ろうとしている様子ではなかった。
同じ妖怪のゆきめちゃんに、その答えを求めるのは違うのかもしれない。けど…。
「思います」
「！」
「だって、鵺野先生は私が好きになった人ですから」
そう言って笑ったゆきめちゃんを見て、胸が切なく揺れた。
妖怪のゆきめちゃんにも感情はあって恋に一途で直向きで、そして人間と分かり合いたいと願っている。そして、きっと私も…。
そんな自分に気付いてしまったんだ。
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作者名：紫亜 | 作成日時：2019年10月12日 22時
