治癒した肩(三頁) ページ24
「…そうかもしれませんね。私は最近まで、その魅力に気付かなかった人間ですから…」
「気付かなかった？」
「！、な、なんでもないです。それより稽古を続けてください。私まだまだやれます」
「…熱心なのはいいことですが、これ以上やると明日に響きますよ。…それに、どうしてそこまで必死にライバルの私に教えを乞うのですか？貴女の味方の鵺野先生でも良かったでしょう」
「ええっと、それには勿論理由があって…」
そう言って言葉を濁す私に玉藻先生は探るように様子を見ていた。
最近鵺野先生には鵺野先生に思いを寄せる雪女のゆきめちゃんが現れたからだ。でも、わざわざ玉藻先生に話すこともないか…。
「鵺野先生には自分のことでご迷惑をかけたくないからです。兎に角、貴方は条件通り私に教えるだけでいいですから」
「そういう訳にはいかない。私には貴女を知る権利がある」
「！」
近付いてきた玉藻先生は私の手首を掴むと、私を覗き込むように今度は顔をグッと近付けてきた。急に端正な顔立ちが近付いてきて、免疫のない私は…。
「ス、スケベ妖怪ー！！」
リツコ先生の幻術を見せてきたのを思い出して我に返ると、私は空いていた方の手で玉藻先生の頬に平手打ち。それからさっさとカバンを拾い上げると、逃げるようにバタバタと玄関先へ移動した。
「今日はもう帰ります！さようなら…！」
「(なんなんだ、一体…)」
始終驚いていた玉藻先生の一方で私は騒ぐ胸を抑えながら帰路に着いていった。相手は妖怪、妖怪だと自分に言い聞かせるように。
一々反応している自分が情けなく思えてくると、しだいに落ち着きを取り戻していく。そして、玉藻先生に診てもらった肩に思わず触れた。
痛みはもう感じられない。その意味を本当はもう私にはわかっていた…。
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作者名：紫亜 | 作成日時：2019年10月12日 22時
