ぞくぞく ページ36
クローリーが帰ったあと、僕はすぐにAに会いに行った。
昨晩クローリーが、自身の禁忌を犯してAの血を吸ったのは聞いている。
その後の彼女がどんな様子なのか、ほんの少し興味があったのだ。
彼女をひと目見て、すぐにその首に傷がある事に気がついた。
彼女が一度死ねば体の状態は健康体にリセットされるから、クローリーは殺すまで吸わなかったらしい。大したものだ。
しかし、これではまるでマーキングのようだ。消そうと思えば消せる傷をわざわざ残しておくなんて。狙ったわけではないと思うが、さて。
…これを、僕が上書きするのはどうだろう?それを想像すれば、背筋がゾクゾクした。人の大事なものを奪うのはいつだって気分がいい。
そうと決まれば。
「…?あの、フェリド。もういいでしょ?離して」
たった今血を吸った彼女が、自分の腕の中で身じろぎをする。
死なないように、と気をつけたら、昨晩すでに限界まで血を吸われていた彼女の血はほとんど吸うところがなかった。これでは足りない。
「いや〜…やっぱり、もうちょっと吸っていい?」
「は?だめだよ。これ以上は死んじゃう」
そうなんだろう。彼女の顔は青白くて、会話の節々でも苦しそうに喘いでいる。
しかし、たった今噛んだばかりの傷から血が垂れるさまは、吸血鬼の本能をくすぐるには充分だった。
「だいじょーぶ。クローリー君にはバレないようにするから…」
「だから、だめだって…やっ…」
逃げようと暴れる彼女の体を無理やり押さえて、再び首に食らいつく。
傷を抉られた痛みに、彼女の目から涙がこぼれた。それもまた、自分を誘う要因なのだと分かっているのだろうか。
ぎゅるる、と血を吸えば、自分の服を掴む彼女の手からどんどん力が抜けていく。たぶん、もう放っといても死ぬだろう。
「やだ、フェリド…、おねがい…」
ぎゅるるるる。
「しにたくない…」
それはこの子の口から初めて聞いた命乞い。
どんな顔をして言っているのかと口を話して顔を見れば、桃色の瞳を涙で潤ませ、血を吸われる快楽に息を荒げている。
僕が離れたことにほっとするような、それでも自分が死ぬ事が分かって絶望するような、そんな顔。
それは、非常に僕好みの顔で。それを見た瞬間、全身がぞくぞくと震えたのがわかった。
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リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時