8 ページ10
「神父様、一つだけ教えて欲しいことがあります」
「おや、珍しいですね。何でしょうか」
「アポロを嫌っている俺なんかの世話を、どうして引き受けてくれたんですか？」
ずっと、聞きたいと思っていたことだった
教会から続く離れの小屋の一室で暮らしだしてから、実に三年以上が過ぎた
智としての記憶を取り戻したばかりの頃、一層アポロを忌み嫌い憎んでいた俺は、アポロを信仰していると言う理由だけで神父様のことも嫌っていた
それなのに、そんな俺に手を差し伸べて、領と親愛を持って名前を呼んでくれた
ここで暮らし始めてからも、必要以上に教会内部へ立ち入ろうとはしない俺を、責めるでも強要するでもなく、ただ見守ってくれていた
そこに理由があったのならば、別れの前にちゃんと知っておきたいと、そう思う
.
「なに、大した理由などありませんよ」
神父様は、笑いながらそっと答えてくれた
「私は確かにアポロ様を信仰し、神の教えを説いています。ですが、それを万人へ押し付けようなどは思っていません。一人ひとり顔形が異なる様に、考え方や信じる物が異なるのは当然の事です。領がアポロ様を嫌っていようとも、困っている子へ手を差し伸べない理由にはなりません」
それにね、と続ける
「初めてあなたが教会を訪れたあの日、私の作ったお菓子を、美味しそうに食べてくれたでしょう」
「ええ、まあ・・・」
智の記憶が戻って混乱している俺に、まずは落ち着くのが第一だと、お茶と一緒に神父様が差し出してくれたのだ
柑橘系の風味が爽やかなケーキで、病み上がりにも関わらずぺろりと完食してしまったのを覚えている
「私には最愛の妻と息子が居ました。しかし、流行り病で二人とも亡くなってしまいました。もう何十年も前になるでしょうか、傷心のままこの土地へと流れ着いたのです」
「それは・・・知りませんでした」
「吹聴して回る事でもありませんからね。・・・二人とも、私の作るお菓子をとても気に入ってくれていました。特に息子は、檸檬のケーキが本当に大好きで・・・。あの時の、あなたの美味しそうに食べる姿が、息子によく似ていたんですよ」
そして神父様は、愛おしむ様な瞳で微笑みながらこう告げた
「だからね、これは私のちょっとした我が儘だったんです。私がただ、あなたと一緒に暮らしてみたかったのですよ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 433人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しゅり(プロフ) - きよさん» きよさん、コメントありがとうございます。二人が何を目指すのか、その結果ぎどう繋がっていくのか、これから徐々に明らかになっていく予定ですので、引き続き楽しんで頂ければと思います。 (2020年10月24日 20時) (
レス) id: 9366a89cfd (このIDを非表示/違反報告)
きよ(プロフ) - しゅりさん、更新ありがとうございます。読むにつれて不安になってきます。過去の記憶を持つ二人が何をするのか、翔くんが一緒にいる彼が雅紀だとして何故寝たきりなのか、無事に成功したとしても翔くんと雅紀は何十年と聖域にいたから戻って平気なのか、すごく不安です (2020年10月24日 7時) (レス) id: ae2dee5c90 (このIDを非表示/違反報告)
しゅり(プロフ) - はるさん» はるさん、こちらにもお立ち寄りくださりありがとうございます。智目線で、少しずつ進んで参りますので、是非楽しんで頂ければと思います！ (2020年10月12日 19時) (レス) id: 9366a89cfd (このIDを非表示/違反報告)
しゅり(プロフ) - まりもさん» まりもさん、早速お立ち寄り頂きありがとうございます。まだまだ他のメンバーも登場してまいりますので、そちらも楽しんで頂ければと思います！ (2020年10月12日 19時) (レス) id: 9366a89cfd (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - しゅりさん、こんばんは。続編ありがとうございます！とても嬉しいです。あの時の2人がどういう風になっていくのかとても楽しみです！ (2020年10月11日 21時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しゅり
| 作成日時：2020年10月11日 19時
